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萌えキャラを腐らせたくない 「東北ずん子」運営会社がAI向け学習データを無料公開、その狙いは(2/5 ページ)

» 2020年07月14日 07時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

ファンを創作に巻き込んで腐らないコンテンツを作る

photo SSSの小田恭央CEO

 歌唱DBの無料公開について、小田社長は「普通の会社だと稟議(りんぎ)が下りないでしょう」と語る。この取り組みの狙いは「収益よりも、莫大な広報効果に投資するもの」だという。

 「腐らないコンテンツを作っている」──小田社長はキャラクタービジネスを展開する中で「コンテンツ制作のコストは非常に大きい」と前置きしながらも、コンテンツを放置しているとファンの興味が薄れていくので、常に新しいものを作り続ける必要があると話す。

 SSSはこれまで、VOCALOID用音源「東北ずん子」や、AHSの音声合成ソフト「VOICEROID」用音源「東北きりたん」といったクリエイター向けのツールを他社の協力の下でリリースしてきた。クリエイターにツールを使って作品を生み出してもらえる状態にすることで、非公式のコンテンツが出続けるような仕組みを整えた。ツールだけでなく、AI歌声合成のような最先端技術に飛びつくことで、イノベーターにファンになってもらえる側面もあるという。

photo VOCALOID用音源「東北ずん子」

 実際、2月には一般のエンジニアが東北きりたんの歌唱DBを使ったAI歌声合成ソフト「NEUTRINO」を開発して無料でリリースした。楽譜を入力すると、AIが人間らしい歌声を自動生成する仕組みで、ニコニコ動画にはNEUTRINOの公開から約4カ月で3000件近い動画か公開されるなど話題になった。動画の再生数は多いもので40〜60万回に上る。

 小田社長によると、NEUTRINOで作った歌声は、音楽業界で楽曲制作時の仮ボーカルに使われたり、楽曲のコンペティションに提出する曲でボーカルに採用されたりと、プロの現場でも使われ始めているという。

 小田社長は「広報の効果は、数年後にライセンス収入として帰ってくるだろう」と見込んでいる。

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