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自社のOracle Cloud活用、決算業務をフルリモートで 日本オラクル経理部のコロナ対応

» 2020年08月14日 07時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 日本オラクルはこのほど、コロナ禍を踏まえ、経理部門がフルリモートで業務を行っていると明らかにした。緊急事態宣言前の3月中旬にテレワークに移行し、6月末に発表した決算(2020年5月期第4四半期)の開示資料もほぼ出社せずに作成したという。自社のクラウド型ERP(統合基幹業務システム)「Oracle Cloud ERP」などを18年から採用しており、社員が自宅から売り上げや経費の入力ができるとしている。

 紙の伝票は使わず、売り上げや経費などは社員がOracle Cloud ERPのシステム上で仕訳と記帳を行っている。電子化した書類の共有などにもOracle Cloud ERPを使っている。顧客からシステムなどを受注した際は、日本オラクルと顧客の両方が、電子化した契約書に電子署名を記すフローを導入している。

 一部の調査では、4月の時点で日本企業の経理担当者の約8割が、決算対応、請求書の発行、受け取りなどのために出社を余儀なくされているとの結果も出ているが、「出社しなくてよく、紙の伝票も使っていない」と、日本オラクルの村野祐史氏(経理部シニアディレクター)は自信を見せる。テレワークは経理部だけでなく、全部門が取り入れているという。

photo 日本オラクルの公式サイト。経理部がテレワークを取り入れている

アジア地域の連結決算はインドで算出

 Oracleグループではもともと、世界各国の現地法人の業績を米国会計基準で算出。米Oracleに集約し、連結決算を作成している。そのため日本オラクルでも、離れた拠点間で決算情報をやりとりする業務プロセスが定着しているという。

 「日本オラクルの決算業務は、米Oracleの連結決算の基になるアジア各国の連結子会社の決算を担当する、インドの『シェアードサービスセンター』と呼ぶ部門に移管しており、売り上げや経費の計上、給与仕分けなどの処理を任せている」と村野氏は説明する。

 日本オラクルの社員がOracle Cloud ERPに入力したデータはリアルタイムでインドに共有され、米国会計基準での決算の作成に使われる。ただ、東証一部に上場する同社は、決算報告書を東京証券取引所に提出する必要があるので、日本オラクル経理部はデータを精査し、日本会計基準にもとづいた単体の決算を改めて作成している。税金の支払いや監査対応なども経理部の仕事だ。

 日本オラクル経理部は、こうした業務を通じてOracle Cloud ERPに蓄積されたデータの集計、算出に、自社のクラウド型経営管理ツール「Oracle Cloud Enterprise Performance Management」(EPM)を使用。最高財務責任者(CFO)がインドにいることもあり、打ち合わせは全てビデオ会議で済ませるなど、さまざまなツールを駆使してリモートワークを徹底している。

 「監査法人による会計監査にもリモートで対応している。『契約書の原本を見せてほしい』と指示された際は、クラウド上で保管している電子化した書類を送っている」と、村野氏は話す。「監査の際に『電子署名では証拠能力が低いので、どうしても物理的な印鑑が必要』と指摘され、社員がはんこを押しに出向いたことはあった」というが、これは珍しいケースだという。

photo クラウド型経営管理ツール「Oracle Cloud EPM」

かつてはオンプレで「時間かかった」

 経理部門がリモートでも円滑に働ける体制を築いている日本オラクルだが、両ツールを導入する18年までは、オンプレミス環境で自社のERPパッケージ「Oracle E-Business Suite」(EBS)を運用。社内や海外拠点との情報共有に時間がかかっていたという(米国本社では13年まで)。

 村野氏は「従来はデータを入力しても、レポートを打ち出すまでに時間差が発生し、資料作成などに時間がかかっていた。現在はデータがリアルタイムに反映されるため、社員は分析にかける時間を長く確保できるようになった」と説明する。

 海外拠点でも効果が出ている。例えばシェアードサービスセンターの決算業務は、クラウド化によって20%時間を削減できたという。村野氏は「グローバルでの連結決算の発表も3日早くなった。もし今後、コロナ禍の影響で、どこかの国でロックダウンなどが発生しても、円滑に連結決算を算出できるだろう」と手応えを示した。

【更新:2020年8月17日午前11時15分 追加の取材と事実確認に基づき、記事中の一部表記を改めました。】

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