渋谷区内の公園に設置されたガラス張りの「透明トイレ」がネットを中心に注目を集めている。通電すると透明になる特殊な曇りガラスを用い、普段は透明だが、施錠時には中を見えなくする仕組み。ガラスの透過性を利用し、夜間は公園の街灯替わりにもなる優れものだ。
このトイレが設置されているのは「代々木深町小公園」と「はるのおがわコミュニティパーク」の2カ所で、東京都出身の建築家、坂茂さんが手掛けた。2014年に「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を受賞した世界的な建築家だ。
坂さんは公園内の公共トイレに対し、「2つの心配なことがある」と指摘する。それは「中がきれいかどうか、中に誰も隠れていないかどうか」だといい、透明トイレによって、「2つの心配ごとをチェックできる」と紹介している。
透明トイレは日本財団の「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトの一環で設置したもの。斬新なデザインに注目が行きがちだが、プロジェクトのコンセプトは「誰もが快適に使用できる公共トイレ」で、渋谷区と同区観光協会とともに2018年に企画をスタート。坂さんに加え、安藤忠雄さんや隈研吾さん、佐藤可士和さんなど国内外で活躍する建築家・デザイナーを中心に16人のクリエイターが参画している。トイレの設計施工は大和ハウス工業、トイレの現状調査や設置機器はTOTOが担当した。
同財団によると、プロジェクト発足のきっかけは「本当の意味でのオープンな公共トイレを作りたい」という思いからだ。パラリンピック競技の支援などを行う同財団は、障害者はもちろん、防犯上の理由などで女性や親子連れの人にとって公共トイレが使いにくいという課題意識を抱いていたという。そこで、プロジェクトの拡大を期待し、IT企業が集まるなど注目度の高い自治体である渋谷区内にこのトイレを設置することを決めたという。
このトイレは7月末、サイボウズの大槻幸夫さんがTwitterに写真を投稿し、約6.9万リツイートされるなど話題になった。トイレを設置した財団は、急に話題になったことをどう受け止めているのか。
ソーシャルイノベーション推進チームの佐治香奈リーダーはITmedia NEWSの取材に対し「びっくりしているが、透明トイレをきっかけにプロジェクトや公共トイレに注目が集まるのはありがたい」と話す。最近では、建築ファンの間でプロジェクトのトイレを巡る「トイレツアー」が密かなブームにもなっているという。
斬新なデザインが話題となる一方、Twitterなどでは「停電すると中が丸見えになるのではないか」など懸念の声が上がっている。佐治リーダーは「通電して透明にしているので、停電しても中が見えることはない」と説明する。
トイレの維持管理は今後3年間は財団が担うが、それ以降は区が担当する予定。トイレの維持には「利用者もプロジェクトのプレイヤー。利用者の協力が欠かせない」と佐治リーダーは話す。
「公共トイレがやむを得ず行く場所ではなく、行きたくなる場所になるのではと期待している。このプロジェクトは、すばらしいデザインのトイレを作って終了ではない。5年後、10年後も快適に利用してもらえるようにメンテナンスにも力を入れていきたい」としている。
同プロジェクトでは透明トイレを含め、年内に計7カ所、来年夏までに全17カ所がオープンする予定。
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