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AIを“導入しただけ”の企業がワークマンに勝てないワケマスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!(3/3 ページ)

» 2020年09月28日 07時00分 公開
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他社事例をなぞって成功する時代は終わった

 これには「他社の成功事例やノウハウを取り込めば自社でも成功する」という考え方が根底にあります。 

 かつては先行する企業の事例やビジネスモデルがあり、それを自社向けに最適化すれば成功する時代がありました。「成功」という設計図があり、それに向けて現場のノウハウをすり合わせ、生産性を上げながらコストを下げつつ、先行する他社よりも高性能低価格で提供することが、目指すべき答えでした。

 対してAIは、設計図通りに動いてくれません。失敗や間違いを繰り返しながら学習して精度を上げる必要があり、最初から成功の設計図を求めて最短距離で目的地に向かう組織には不向きです。

 ワークマンとて、自分で手を動かしてデータを積み重ねながら、愚直にノウハウを蓄積した過去があることでしょう。なぜなら成功する事例やノウハウは、ネット上はもちろん、まだ世の中に存在すらしていないからです。

 あるAI製品が他社で成功しているからといって、環境やデータも異なる自社においても成功を保証する根拠にはなりません。

 ワークマンだから成功したのではなく、ワークマンが社名の通り「働く者」として手を動かし、現場に出向き、顧客や売り場と向き合ってつかんだ成果といえるでしょう。

ワークマンと〇〇マン

 つまり“ワークマン”とは、熱い行動力とデータ戦術を後天的に併せ持つ、実直な職業人の呼称です。

 AIで失敗した企業には、手を動かすという「まずやってみる」という行動力が足りなかったと思われます。動かしたのは口だけで、動いたのは外注や部下であり、自分の頭と手は動いていないのです。昨今耳にする「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」においても、こうした行動力が必要ではないでしょうか。

 ワークマンの成功は、一朝一夕ではありません。データ分析に取り組んで売り方を変えるにも、社内と全店舗(改革を開始した2014年時点では700店舗)に浸透させるには時間がかかります。売上が急激に増えたのはここ数年であり、データ分析組織への改革を叫んだ当初から数年間は売上に大きな変化は見られませんでした。

 それでも愚直に自社だけの成功モデルを探り続けた結果が、一般消費者向けのアウトドア商品を販売する専門店「ワークマンプラス」であり、SNSやマスコミに広く取り上げられる現象にもつながりました。そうした努力を欠いたワンマン社長は“いきなり”店舗を増やすことはできても、急拡大のツケで失速するのはさまざまな事例からも学べます。

 成功とはAIを導入したり、データサイエンティストチームを立ち上げたり、データ分析ツール導入したりすることではありません。経営陣による組織づくりと、社員達による業務づくりという視点で、数字とデータを浸透させることです。

 記事を読んだ人も、これだけで納得してはいけません。ワークマンのお店に行き、どんな商品をどうやって売っているかを自分の目で確かめて、自分の頭で考えてみましょう。

 関東育ちの読者は、かつて流れていた吉幾三さんのCMソングを思い出してください。

行こう みんなで ワークマン

(参考書籍:酒井大輔「ワークマンは 商品を変えずに売り方を変えただけで なぜ2倍売れたのか」、日経BP、2020年)

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