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» 2020年09月28日 07時00分 公開

AIを“導入しただけ”の企業がワークマンに勝てないワケ (1/3)

作業着の専門店であるワークマンがデータ分析で売上を伸ばせた一方で、AIブームに乗っただけの企業が成功できなかった理由とは。マスク・ド・アナライズ氏が解説します。

[マスクド・アナライズ,ITmedia]

 かつて関東在住者にとって「ワークマン」といえば、国道沿いにある作業着の専門店であり、演歌歌手である吉幾三さんのCMでした。

 それがここ数年ですっかりイメージが変わり、店には女性客や家族連れが訪れるように。テレビでもオシャレで便利なアイテムが紹介されています。変わったのはイメージだけではありません、売上も2014年から約2倍に増えています。

ワークマンの売上推移

 売上増の背景にはさまざまな要因がありますが、データ分析を活用した全社的な売り方の工夫が代表的な取り組みとして挙げられています。

 一方でワークマンの急成長と同じ頃、他の企業ではAIやデータサイエンティストのブームに沸いており、AIやデータ分析ツールの導入、データサイエンティストの採用などを行っていました。

 しかしワークマンのように売上が伸びることはなく、耳にするのは「某社が多額の費用をかけたAI導入が失敗」「有名企業のデータサイエンティストチームが解散」「あの会社は誰も使ってないデータ分析ツールを解約」という業界しくじり先生ばかりです。

 ワークマンからも「高性能なAIを導入」「凄腕データサイエンティストが入社」「高価なデータ分析ツールを活用」という話題は聞こえず、この時点で他の企業とは異なるデータ分析の姿勢を持っていることが垣間見えます。

 AIとワークマン、どうして差がついたのか……慢心、環境の違い。

 そこでワークマンの取り組みを調べたところ、データ分析で売上が2倍になった理由と他の企業がAIで失敗する原因が分かりました。

連載:マスクド・アナライズのAIベンチャー場外乱闘!

マスク

自称“AI(人工知能)ベンチャーでの経験を基に、情報発信するマスクマン”こと、マスクド・アナライズさんが、AIをめぐる現状について、たっぷりの愛情とちょっぴり刺激的な毒を織り交ぜてお伝えします。今後は、AI情報だけでなくIT業界全般に役立つ情報もお届けしていきます。

お問い合わせのメールは info@maskedanl.com まで。Twitter:@maskedanl

(編集:井上輝一)


目的が曖昧なAI導入企業 目的が明確なワークマン

 ここ数年のAIブームでは、「わが社も」「とりあえず」「他社がやってるから」「いきなり」「上司の命令」というフレーズが各所で飛び交い、「AIなら何でも解決できそう」というイメージによって、他の方法で解決できる問題に対してもAIが使われました。

 こうしてAI導入が目的化した結果、費用対効果や分析精度など本来の目的を見失い、失敗に終わる企業が相次ぎました。

ワークマンが成功した理由

 対してワークマンは明確な計画とビジョンを定めて、必要な箇所に最適な施策を取り込みました。

 店舗には誰でも操作しやすいExcelがあり、本部社員は小売業向けのデータ分析ツールを使用。AIや高価な分析ツールを用いるのは発注アルゴリズムなど複雑な分析を行う専任データ分析チームのみに絞っています。

 このように部門ごとに最適な施策を判断して、全社的なデータ分析の推進を行ったのは、実質的なCIO(最高情報責任者)によるトップダウンが始まりです。

 ヘッドハンティングで2012年に入社した土屋哲雄氏(現専務)が、ワークマンの社内システムやデータベースを整備。EDIにより発注業務のデジタル化や需要予測の最適化に取り組み、旧来の「勘と経験」というアナログ的手法から、「数字とデータ」という「デジタルワークマン」に変革するための土台作りを行いました。

 環境整備を進めながら、14年に改革推進のための計画とビジョンを立ち上げて、トップダウンによる改革を推進します。しかし、掛け声だけの一方的なトップダウンでは、現場からの反発は避けられません。

 外部から入社した役員や役職者に対して、現場は「お手並み拝見」と斜に構えた態度を取りがちです。そこで実質的なCIOである土屋氏は、仕事中にスーツではなくワークマンの服を着るようにしました。更に自宅でもワークマンの服を着て自社商品の改善に努めて、現場からの理解を得ました(もっとも家族からは「その格好で外出するのはやめて」と不評だったようです)。

 土屋氏は現場にメスを入れるべく、社員に対し、売上に連動して給料を増やすようにしました。社員の評価においても、勘と経験ではなくデータ分析スキルで透明性を上げるようにしました。

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