日本政府はこのほど、Amazon Web Services(AWS)を基盤とするITインフラ上に、各省庁が個別に運用してきたシステムを集約した「第二期政府共通プラットフォーム」の利用を始めた。今後は府省を横断した運用によって、コスト削減や業務効率化が可能になるという。
「政府共通プラットフォームの稼働は、公共部門でのクラウド利用が黎明期から普及期へと転換したことを示す象徴的な出来事だ」。AWSジャパンの宇佐見潮執行役員(パブリックセクター統括本部長)は、10月13日に開いた記者向け説明会でこう強調した。
宇佐見執行役員によると、政府はこれまで、ITシステムの調達・会計は固定価格であることを前提としてきた。クラウドサービスは従量課金制で利用料が変動し、調整に多大な時間がかかることから、行政機関での活用が進んでいなかったという。
そうした中で、政府はIT活用の遅れを問題視し、システム調達の際にクラウドの利用を第一候補にする「クラウド・バイ・デフォルト原則」を2018年に発表。以降はクラウドの導入に向けた準備を進めてきた。政府共通プラットフォームもこの原則に即して導入する。
AWSジャパンもこの流れに沿い、政府が以前の体制から脱却し、スムーズに政府共通プラットフォームを活用できるよう、さまざまな企業と協力しながら支援していくという。
AWSジャパンは政府共通プラットフォームに、インフラ構成をコード化して再現性を高める「Infrastructure as Code」を採用。同じ構成の基盤を簡単に複製できるようにしている。マネージドサービスも提供し、プロビジョニングやセキュリティパッチの適用などの運用管理を同社が担う。「AWS Shield」「AWS WAF」など、DDoS攻撃などからシステムを保護するセキュリティ対策ツールも導入しているという。
複数のアベイラビリティゾーン(AZ)を併用してシステムを冗長化する「マルチAZ」方式も採用。AWSジャパンが2021年初頭に開設する大阪リージョンと現行の東京リージョンと並行して利用し、耐障害性をさらに高める計画だ。
今後はサーバレスの技術や、アプリケーションのコンテナ化などを政府共通プラットフォームに取り入れ、よりクラウドに適したアーキテクチャを構築することも検討中としている。
政府共通プラットフォームの運用管理には、AWSジャパンだけでなく、複数のパートナー企業やITベンダー、SIerも協力する。プラットフォームの運用管理はNEC、調達とコスト清算は日立システムズが担当。行政関連のシステムをオンプレミスからプラットフォームに移行する際は、NTTデータが工程管理を担う。
政府共通プラットフォームの運用にあたり、政府はAWSと直接契約せず、AWSのリセールパートナーが間に入ってサービスを提供する。政府側では総務省が各省庁の窓口となり、各省庁とリセールパートナーの契約を取りまとめるほか、従量課金制を前提としたコストの算出と支払いを行う。
「かつての体制とは異なり、会計まわりを個別に調整する必要がなくなるので、ユーザーである省庁は、より早くクラウドの恩恵を享受できるだろう」と、宇佐見執行役員は活用メリットを強調する。
ただし、多くの企業が運用に携わると、責任範囲があいまいになるリスクもある。この解決策として、宇佐見執行役員は「全体として責任共有モデルでのガバナンスを効かせるが、役目を分けることでけん制を働かせる。システムを正しく移行するのは、移行を支援する企業の役目。各社の利害関係を調整するのは工程管理事業者の役目だ」と説明した。
政府共通プラットフォームの稼働は、まだ始まったばかり。従来の体制を大きく変える起爆剤となる可能性もあるが、国民向けの行政サービスにどのような影響があるかは未知数だ。だが、AWSジャパンは昨今注目を集める「デジタル政府」の実現を政府と共に目指していくという。
宇佐見執行役員は「菅義偉新首相はデジタル化への言及が非常に多い。当社もこれほどデジタル化に注力して頂けるとは思っていなかった。菅政権の課題に応えられるよう、活動を加速していきたい」と力を込めた。
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