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iPhone 12 Proシリーズに搭載の「LiDARスキャナ」って何だ? カメラとの連動で暗所撮影に力を発揮明日から使えるITトリビア

» 2020年10月21日 17時45分 公開
[樋口隆充ITmedia]

 米Appleが10月23日に発売する初の5G対応モデルの「iPhone 12」シリーズ。ハイエンドモデルの「iPhone 12 Pro」「iPhone 12 Pro Max」にはiPhoneシリーズでは初となる「LiDARスキャナ」を搭載し、暗所でのカメラのAF性能が最大で6倍も向上したという。

photo 「iPhone 12 Pro」シリーズに搭載のLiDARスキャナ

 LiDARでカメラの性能が上がるというが、そもそもLiDARとは何か、LiDARでなぜカメラ性能が上がるのかピンと来ていない人もいるのではないだろうか。

 ここでは、LiDARの基礎知識とiPhoneでの使われ方を簡単に見ていきたい。

自動運転や3D地図作成に欠かせないLiDARスキャナ

 LiDARは「Light Detecting and Ranging」の略で、レーザー光を対象物に照射し、反射して戻るまでの時間から、物体までの距離を計測するためのセンサー。電波の反射を利用する「レーダー」(Radar:Radio Detecting and Ranging)の光バージョンと考えると分かりやすい。

 Apple製品では3月に発売された2020年モデルの「iPad Pro」で初搭載された。一般的には自動運転や3D地図の作成などに使われており、最近ではNASA(米航空宇宙局)が次の火星着陸ミッションでも使用するという。

 中でも自動運転での活用が著しく、米Velodyne Lidarの製品は多くの実験で使用されている。走行実験では、センサーが数百m先まで360度スキャンし、車の位置や障害物の状況を認識。周囲の状況をセンサーが正確に認識することで、AIが適切な運転操作やリスク判断を行い、自動運転を可能にしている。

photo 自動運転の分野で活用が進むLiDARスキャナ(出典:Velodyne Lidar公式ページ)

 一方、iPad ProやiPhone 12 Proなどに搭載されたLiDARは自動運転車に搭載されたものとは異なり、最大5m先まで計測できる性能にとどめられている。

 iPad Proでは、主にAR(拡張現実)の立体表示や身長測定といったアプリで精密な表示や計測に使えたが、iPhone 12 Proシリーズではカメラ機能との連動を強化。暗所でのAF性能が大幅に向上し、ナイトモードでも美しいポートレートを撮影できるという。

iPhone 12 Proシリーズに見る「次のカメラの形」

 LiDARとカメラの組み合わせは、既存のカメラのコントラストAFや位相差AFの代替になる可能性を秘める。また、対象物の形状が分かるため、大口径レンズの前後ボケを小さなレンズで表現できたり、撮影後のポートレートライティングの編集精度が向上したりする可能性も考えられる。

 仮にそうだとした場合、iPhone 12 Proシリーズのカメラは、従来のフルサイズカメラなどとの性能差を一定程度、埋めることに成功したように見える。暗所での撮影や写真のボケ感という点では、センサーサイズが大きいフルサイズカメラなどに分があるとの見方がこれまでの定説だったからだ。

 iPhoneシリーズに限らず、近年のスマートフォンのカメラ性能の向上は著しい。それに伴い、デジタルカメラの出荷台数は年々減少の一途を辿っている。

 現時点で、大衆向けのデジタルカメラにLiDARを搭載したものはない。LiDARを搭載したiPhone 12 Proシリーズの評価次第では、既存のカメラメーカーにとっては今後の製品の在り方を考える大きなターニングポイントになるかもしれない。

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