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「ゲームエンジン」はいかに世界を変えつつあるのか(2/2 ページ)

» 2020年10月22日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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フォトグラメトリーがCGの活用を変えた

 バーチャルプロダクションでは、背景のセットなどを3Dデータで用意する必要がある。そこでは、CG映像を作るために製作したデータなどももちろん使われるが、実際に撮影に使ったセットの一部や屋外の実際の風景などを撮影、そこから3Dデータを生成する「フォトグラメトリー」も活用される。

 以下はソニーで取材中に聞いた話である。

 2019年に公開された「メン・イン・ブラック:インターナショナル」のプロモーションの際、新しい宣伝用映像を作る必要が出てきたのだという。だが、撮影はとっくに終わった後で、セットなどはもうなくなっている。

 そこで、セットをフォトグラメトリーで撮影しておいたCGデータから映像として再現し、バーチャルセットで撮影して宣伝映像を作ったのだそうだ。セットを作り直すのはほぼ不可能だが、CGとしてデータが残っていれば(質感などの面で限定的なものではあるが)再撮影も可能になる。

 フォトグラメトリー技術の進化によって、3Dデータの製造と蓄積はかなり容易になった。3Dスキャナーも増えている。質は高いものではないが、それこそ、iPad ProやiPhone 12 Proを持ってくれば3Dスキャンができる時代である。

 また、製造段階でCADで作られたデータの活用もできる。

 3Dデータが増えてきたこと、そこに「高品質な3Dグラフィックスを比較的簡単に表示する仕組み」としてのゲームエンジンが組み合わせられることで、産業向けのビジュアライゼーションの可能性は大きく広がってきた。

 ショールームなどでの活用はもちろん、製造段階でのリアルタイムプレビューなど、活用の幅は広い。

マシンパワーの拡大が「現実のデータを当たり前にCGとして使う」時代を生み出す

 過去、そうした使い方をする場合には、「製造やフルクオリティのCG映像を作るためのデータは、リアルタイム表示にはとても使えない」ことが問題とされてきた。

 そのため、データの小規模化などのテクノロジーが必要なのだが、「質が落ちるなら作り直す方がいい」時もあり、結局手間がかかって意味がない……という意見があった。

 今もその課題はあるのだが、だいぶ状況が変わりつつある。

 まずは、マシンパワーが圧倒的に上がってきたのが大きい。

 今はそれこそ、30万円程度かければ、リアルタイムレイトレーシングを使った映像が自由に使えるPCを用意できる時代だ。ゲームエンジン側も「巨大なデータを使う産業向けの用途」を考えるようになってきており、小さなデータしか使えない……という話でもなくなってはきた。ちゃんと予算をかければ、もうデータの問題はそこまで怖くない。さらに、2021年の投入が予定されている「Unreal Engine 5」では、従来ゲームエンジンでは全く扱えなかった「映画レベルのデータ」を使い、表現を高度化する仕組みも導入されるという。

 しかも、今は「サーバ側でデータを小さくし、モバイルデバイス表示品質を保つ」仕組みも生まれている。米Microsoftの「Azure Remote Rendering」がその代表例だ。

 そうすると、こうしたデータをマシンパワーの小さい一体型VR・AR機器でも使えるようになる。

 ARやVRでは、UI開発の容易さもあって、ゲームエンジンでの開発が基本になっている。別にゲームアプリが多いからだけでなく、「存在の基本が3D」なのでゲームエンジンとの相性がいいのだ。

 そういう機器が増えることも考えると、開発の軸にゲームエンジンを使ったアプリの比率はどんどん高くなっていくことだろう。

 マシンパワーやディスプレイの変化によって、3D CGの価値は劇的に高まっている。特別なものではなく、街中で見るサイネージや仕事用の資料に入ってくる可能性も極めて高い。それは昔から想定されていたことではあるが、ようやく「マシンパワー」と「ディスプレイ」、そして「用途」の全てが噛(か)み合った時代がやってきたと考えている。

 冒頭で「ゲームエンジンが世界を変えつつある」と書いたのは、こうした全体環境を見ると「必然」と分かるのではないだろうか。

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