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「シンギュラリティはSFめいた話」──人工知能学会会長が切る“間違ったAIのイメージ”と正しいAI研究の姿第1回 AI・人工知能EXPO【秋】(1/3 ページ)

» 2020年10月29日 11時39分 公開
[石井徹ITmedia]

 「シンギュラリティはSFめいた話だ。そもそも“知能”が何を示すのか、定義せずに語っても意味が無い」──人工知能学会の野田五十樹会長は、10月28日に開催された「第1回 AI・人工知能EXPO【秋】」(幕張メッセ)の特別講演で、現実の研究からかけ離れた“AI”のイメージを否定した。

 野田会長は「ディープラーニングは万能の関数近似ツールである」ともいう。これまでのAI研究の歴史と、今のAIの研究テーマについて野田会長が解説した。

人工知能学会の野田五十樹会長(産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹)

AIが目指していたのは「神経系の模倣と知能の再現」

 近年の人工知能ブームは「第3次AIブーム」と呼ばれている。ディープラーニングなどの技術が注目されているが、広い意味の「AI」はより幅広く、長い歴史を持つ。

 人の能力を機械で置き換えるという意味の「AI」を作る試みは古くからさまざまな形で試みられてきた。人の計算能力を代替するという意味においては、コンピュータもその一形態といえる。現代の技術につながる「AI」の由来は約60年前にさかのぼる。1956年に米国で開催された研究発表会で「Artificial Intelligence」(人工知能)という言葉が初めて使われたとされている。

 その後60年代、80年代と二度の人工知能ブームを経て、2000年〜2010年代に第3次AIブームが到来し、現在に至る。過去のAIブームは新たな技術コンセプトの発見によって起き、AIの将来性に期待した多くの研究者がこの分野の研究に参加した。ただし、ブームの後に技術的な限界が判明して、「幻滅期」、つまり冬の時代が訪れるのが過去2回の流れだった。

 そもそもAIが目指していたものは「人類の神経系」を機械で模倣し、人間の知能の再現に挑むことだった。一方、目下の第3次AIブームで注目されている技術「ディープラーニング」は人間とはかけ離れたシステムとなっている。それでも実用性を備えていたことから、現代に欠かせないソフトウェア技術の一つとして、あらゆる分野で応用されている。

ディープラーニングは「万能の関数近似ツール」

 現代ではさまざまなシステムにディープラーニング技術が組み込まれ、「AI」の代名詞的存在になっている。例を挙げれば、LINEで自動返答してくれるチャットbotや、「Google 翻訳」のような機械翻訳ツール、スマホのポートレートモード、人を検知して体温を表示するカメラ、自動運転車など、とにかく幅広い分野で活用されている。

 ディープラーニングは、機械学習の手法の一つだ。機械学習は、人工ニューラルネットワーク(神経回路網)を生成するメカニズムのこと。野田会長は「ニューラルネットワークの機能を一言で定義すると『万能の関数近似ツール』である」という。

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