ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >
ITmedia AI+ AI活用のいまが分かる

「シンギュラリティはSFめいた話」──人工知能学会会長が切る“間違ったAIのイメージ”と正しいAI研究の姿第1回 AI・人工知能EXPO【秋】(2/3 ページ)

» 2020年10月29日 11時39分 公開
[石井徹ITmedia]

 まず万能性については「数学的にどのような関数でも模倣できる」(同)。ある入力をすると一定の値を出力するため関数であるといえる。そして、「ある程度の誤差を許容すれば実用性がある」(同)ために近似もしている。

 野田氏はこれをサッカーボールに例える。例えばボールを真っすぐ蹴ると、前に向かって飛ぶ。蹴る力を強くすれば速く飛び、サイドから蹴ると曲がりながら飛ぶ。このとき「蹴る力」や「蹴る角度」が入力で、「ボールの速さ」や「ボールの飛ぶ方向」が出力に当たる。

 ニューラルネットワークは万能の関数近似ツールなので、正しく学習させればサッカーボールを蹴ったときの結果を計算によって模倣できる。ただし、適切な出力を得るには適切な入力を設定する必要がある。また、全ての要素を完全に考慮して模倣するのは実際には困難だ。そのため計算による結果は、近似値として捉える必要がある。

 ディープラーニングがこれまでの計算技術と異なる特徴として、「人間が全てを定義する必要がない」という点が挙げられる。ディープラーニングは人間が被写体などの特徴を定義しなくても、学習によってその特徴を学べる。

 ここでいう学習は、膨大な「入力」や「出力」の具体例を与え、入力から出力を導き出すよう訓練することだ。リンゴの写真とリンゴ以外の果物の写真を数千枚規模で用意して学習させれば、果物の写真の中からリンゴだけを識別するニューラルネットワークを生成できる。

 機械学習のコンセプトは1959年の時点で存在はしていた。ただし、90年代まではコンピュータの計算能力が乏しく、大量の入力を用意することもできなかったため、例えばチェスをプレイするニューラルネットワークなど、用途が限られた問題にのみ使える手法だと見なされていた。

 その状況が変わったのは2000年代。コンピュータの計算能力の劇的な向上によって、ディープラーニングに必要な処理能力が得られるようになった。また、学習に使えるデータもインターネットなどにより大量に収集することが可能となった。こうして、人工知能によりさまざまな課題を関数として近似できるようになった。

 ディープラーニングの発展につれて、あるデータセットで学習したモデルを別種のデータセットに適用する「転移学習」や、画像生成AIと評価AIを戦わせて自然な画像を生成する「敵対的生成ネットワーク」(GAN)などの応用的な手法も作られるようになった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.