そのため、まずは外科手術を行って頭にチップを埋め込んででも解決したいような重い課題を抱える人がいる、医療方面から取り組んでいるようだ。実際に、身体に刺激を与える装置を埋め込むという治療方法は、例えば難治てんかんに対する補助療法として既に行われている。
さらに、世界の人口の6人に1人は脳に関連する病気を抱えているといわれる。脳に関する病気は情報化社会、高齢社会が進むにつれて最も大きな社会問題となりつつあるといっても過言ではない。
Linkは将来的に健康な人も手軽に受けられるサービスとなるとしている。具体的には、数千ドル程度の費用で、レーシック手術のように部分麻酔で埋め込みの手術を受け、日帰りできる形を目指すという。スムーズな社会実装のためには、この手術がいかに気軽かつ安全に受けられるかが大きな焦点になる。自動手術ロボットV2はその実現のための目玉として発表された。
Neuralink以外にもBMIに取り組んでいる企業はある。Neuralinkと同等かそれ以上に先行している例をいくつか取り上げたい。
米Paradromicsは、米国防高等研究計画局(DARPA)から1800万ドルを超える投資を受けているBMI企業だ。同社は脳に安全かつ容易にチップを埋め込むためのレーザー手術ツールを開発。Neuralinkの発表の直後となる8月31日に、その技術のデモンストレーションを行った。ここで埋め込むチップは、低消費電力で高データレートの送受信が可能なものだ。
アメリカの億万長者ブライアン・ジョンソン氏が立ち上げた米Kernelにも注目したい。当初はNeuralinkなどと同様に埋め込み型のBMIシステムの開発を計画していたが、頭にチップを外科的に埋め込みたい人がどれだけいるかに疑問を持ち、現在は取り外し可能なヘルメットの開発を行っている。脳の電磁活動を計測する「Flux」というシステムと、脳の血流を計測する「Flow」という2つのシステムを「NaaS」(Neuroscience as a Service、サービスとしての神経科学)として提供している。
米OpenwaterもKernelと同様に、頭蓋骨に穴を開けずに脳活動を計測しようと考えているようだ。赤外線と超音波を使い、脳だけでなく骨や腫瘍など身体の内部を計測する技術を開発している。
少なくとも10年ほどは未来のことと思われるが、ブレインテック技術が広がり脳を手軽に読み取れるようになったら、何ができるようになり、世界はどうなるのか。どうしてもSFっぽくなるが大胆に予想してみよう。
埋め込まれたチップは、脳内信号をリアルタイムで読み取りワイヤレスで外部に送るだけでなく、逆に脳に刺激を与えて書き込むこともできる。そうなると、考えただけで機械が動くだけでなく、ある人から読み取った情報を別の人に書き込むことでテレパシーも可能になるだろう。
現在のコミュニケーションは考えたことを言語にコーディングし、音声や文字で相手に伝え、受け取った人はそれをデコーディングして理解する。このコーディングは決して効率の良いものではなく、抜け落ちる情報もあるため、誤解がしばしば発生する。
使用言語が違うと、受け取ってもデコーディングできず理解できない。テレパシーも最初は言語を利用するだろうが、将来的には考えているイメージを言語を使わずそのまま伝えることができるようになる可能性がある。実際に、最近ヘルシンキ大学が脳波からAIを用いて人間の脳をモデル化し、思い通りの画像を自動的に作成する技術の論文を発表している。
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