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AIに負けるな──イーロン・マスク「Neuralink」の狙いは「人類の能力の拡張」 脳を読み取る「ブレイン・マシン・インタフェース」開発の今(1/4 ページ)

» 2020年11月25日 07時00分 公開
[平井祐希ITmedia]

 最近、脳科学とITを組み合わせた技術のニュースを聞くことが増えてきた。考えただけで機械を動かしたり、年齢とともに落ちていく記憶力などを脳に刺激を与えてトレーニングして若い頃の能力を取り戻したりする、SF小説のようなサービスが既に実現間近まで来ているのだ。これらの脳科学を活用したサービスは「ブレインテック」もしくは「ニューロテック」と呼ばれている。ブレインテックのサービス応用範囲は幅広い。

 例えば、文字を打ち込む時を考えてみよう。英語の場合、キーボードでの入力速度は平均して1分間に65〜75単語といわれる(タイピングテストサイトLiveChat調べ)。しかし、自分の思考を伝える方法としては直接発声した方が早いことは一般的に知られている。ということは、脳から思考を直接読み取ればもっと早い伝達も可能かもしれない。

 米Facebookは、今までとは異なる入力方法として、考えただけで文字入力ができるシステムの開発を行っている。脳波を読み取ってコンピュータに入力する「ブレイン・マシン・インタフェース」(BMI)と呼ばれる仕組みだ。同社が目標とするのは、1分間100語という高速入力システムで、非侵襲型の脳波センサーによってこれを実現しようとしている。

 FacebookのBMI技術開発を巡っては、2019年にBMI技術を開発していたベンチャー企業CTRL-labs社を買収し、技術開発部門のFacebook Reality Labsに組み込んでいる。また直近では、共同研究を行っているカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームが20年3月に、新しい機械学習と組み合わせることで以前より多くの語彙(それまで100語だったところを300語に)を実験に使いながらもエラー率を3%に抑えられた(それまでは60%超のエラー率だった)と発表している。

Facebook Reality Labsが作った「ブレイン・マシン・インタフェース」(BMI)

 米TeslaのCEOであるイーロン・マスク氏は、ブレインテック分野でNeuralinkというベンチャー企業を立ち上げた。頭にチップを埋め込んで脳の信号を読み取ることで、考えただけで機械が動いたり、テレパシーのように言語を用いない意思疎通ができたりするシステムを開発している。20年8月29日に行った開発進捗の発表では、実際に脳に埋め込めるチップを披露して話題を呼んだ。

イーロン・マスク氏が8月29日に発表したNeuralinkの開発状況

 Neuralinkについて最新の内容に触れつつ、マスク氏がブレインテック事業を始めたそもそもの狙いや今後の展望、またこれらのサービスによって何が可能になるのかをひも解いていこう。

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