ITmedia NEWS > 科学・テクノロジー >

新政権で米宇宙政策はどうなる? NASA「アルテミス計画」 次期長官の動向にも注目集まる(2/4 ページ)

» 2020年11月26日 18時56分 公開
[秋山文野ITmedia]

新政権でも「アルテミス計画」は継続か

 とはいえ、バイデン次期大統領はオバマ政権時代に副大統領として宇宙計画の実施に関わっていること、また科学技術を重視する姿勢などから、ある程度は事前に政策の方向性を予想できる。

 その核になるのは、20年8月に採択された民主党の政策綱領だ。第2項「強力かつ公正な経済の建設」には、NASAの行う月の有人探査、火星探査、太陽系探査活動を支援する旨が明記されている。また、NASAと米海洋大気庁(NOAA)による気候変動を解明するための地球観測ミッションを支援するとも書かれている。

 こうしたことから、現在進められている有人月探査を含む国際宇宙探査「アルテミス計画」は引き続き実施というのが、新政権の宇宙政策に関する米宇宙専門メディアの見方だ。

 特にアルテミス計画については、10月に国際的な宇宙探査協力の指針となる「アルテミス合意」を日米、およびオーストラリア、カナダ、イタリア、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦、英国のパートナー国で結んでいる。

 アルテミス合意は罰則を伴うものではないが、国際的な合意をすぐに米国側の都合でほごにするということは考えにくく、ある程度は実行を後押しするものと考えられている。

月面有人探査の目標年は? コロナ禍で延期多発の可能性

 一方で、アルテミス計画を目標通りの年に実施できるか、という点については否定的な見方が強い。

 月・火星の有人探査を目標とする活動はオバマ政権時代から進められており、17年にトランプ大統領が宇宙政策指令-1(SPD-1)に署名し、有人月探査及びその後に火星探査を実施することを正式に決定した時点では、米国の宇宙飛行士による月面再着陸は28年を目標としていた。

 しかし19年3月、NASAの月面再着陸目標が大幅な前倒しとなる24年になるとペンス副大統領が発表した。前倒しの理由は明らかにされていないが、トランプ政権が2期続いた場合、24年は2期目の最終年となり、任期中に月面着陸の復活を実績としたい意向があったとみられている。

photo アルテミス計画の月面着陸システム「HLS」イメージ Credits: NASA

 18年にNASA長官に就任した元共和党議員のジム・ブライデンスタイン氏は、アルテミス計画の目標達成に向けてリーダーシップを発揮してきた。

 とはいえ、技術的な要となる有人着陸システム(HLS)の開発のため、21年度予算としてNASAが要求した37億ドルの予算は、議会で最終的に10億ドルと大幅減額を強いられた。

 また11月12日付で発表されたNASA監察総監室(OIG)の報告では、COVID-19などの要因で計画が遅延する可能性が高いという指摘が上がっている。SLSロケット・オライオン宇宙船の組み合わせによるアルテミス無人実証機「アルテミス1」の実施は3年、有人による月周回実証「アルテミス2」の実施は2年遅れる可能性が高いとの見方だ。

 すでにアルテミス1は打ち上げ目標を20年から21年に延期している。新政権はアルテミス計画の実施は堅持するものの、実行目標をより現実的な年に再設定するとみられている。日本は19年10月にアルテミス計画への参加を表明し、20年代後半に日本人宇宙飛行士の月面着陸を目指しているが、この目標も玉突き的に遅れるとみられる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.