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新政権で米宇宙政策はどうなる? NASA「アルテミス計画」 次期長官の動向にも注目集まる(3/4 ページ)

» 2020年11月26日 18時56分 公開
[秋山文野ITmedia]

新政権で温室効果ガス観測衛星の復活も

 気候変動の分野も、新政権で大きな動きがあるとみられる分野の1つだ。NASAの計画では、気候変動の解明を目標とする「地球科学プログラム」が新政権で復活するのではないかとの期待が米宇宙専門メディアを中心に高まっている。民主党綱領に「気候変動との闘い」が挙げられている上、バイデン氏が21年の大統領就任後にパリ協定へ再加入する方針を示しているためだ。

 現職のトランプ大統領は気候変動対策に冷淡で、NASAの研究分野を縮小するとともに事業をNOAAへ移管するなど、地球観測プログラムはトランプ政権下では縮小された。

 現政権の影響でNASA・NOAAの連携は当面続くと考えられるものの、予算が縮小された温室効果ガス観測衛星の復活など具体的な施策が早期に実施される可能性もある。

次期NASA長官は誰? 現職長官は辞任表明も根強い続投論

 次期NASA長官の人事にも注目が集まっている。約1万7000人の職員を抱える世界最大の宇宙機関NASAを率いる長官は、これまで政権移行後にホワイトハウスから指名され、投票によって議会の承認を受けて就任してきた。政権移行とともにNASA長官も交代するのが慣例だ。

 現在のジム・ブライデンスタインNASA長官は、トランプ政権発足時の17年に指名を受けて18年春に就任。指名当時は共和党の元議員だったブライデンスタイン氏に対して、政権の意向を受けてNASAから地球観測プログラムを縮小しに来たとの見方があり、党派性が強すぎるとの懸念の声は強かった。

 18年春の投票ではわずかな差で承認されることになったが、実際には就任後のブライデンスタイン長官は「共和・民主両党のバランスをとって公平性のある運用を実現した」との評価が高い。オバマ政権時代のチャールズ・ボールデン前長官とも連携し、2010年からスペースX、ボーイングが開発を進めてきた民間宇宙船の飛行をついに実現させ、5月の有人飛行実証「Demo-2」、そして野口宇宙飛行士が搭乗した運用段階の「Crew-1」にこぎつけたことは記憶に新しい。

photo 2019年9月に来日した際のジム・ブライデンスタインNASA長官 撮影:小林伸

 ブライデンスタイン長官は地球観測プログラムに対しても当初の予想に反して一定の理解を示し、予算カットはあったもののNOAAへの協力も惜しまなかった。NOAAが運用する気象観測衛星のデータ受信と地上の5G通信網の間で電波干渉問題が発生した際には、連邦通信委員会(FCC)へ先頭に立って申し立てを行うなど調整に尽力している。

 こうしたリーダーシップと人柄への評価から、選挙期間中からブライデンスタイン長官の続投を望む声があった。政権交代と連動するのが慣例とはいえ、1990年代にはブッシュ政権からクリントン政権をまたいでダニエル・ゴールディン元長官が続投したという先例がある。同様のケースは今回もありうるのではないかというわけだ。

 続投を希望するネット署名活動まで行われたが、ブライデンスタイン長官自身がこうした見方を否定し、辞任の意向を示した。航空宇宙専門誌Aviation Weekへのブライデンスタイン長官のコメントによれば、「NASA長官職は大統領と緊密に連携する必要があり、バイデン新大統領とはそうした関係を築くことが難しいためふさわしくない」という。こうして、ブライデンスタイン長官は惜しまれてNASAを去ることになった。

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