ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

「フォートナイト」が高齢者に人気? 「孫との話題が広がった」 60歳以上向けeスポーツ施設のいま

» 2020年11月27日 15時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 「フォートナイトをやってみたいという高齢者が多い。お孫さんや家族がプレイしていたり、テレビで何度か取り上げられたりしたこともあり、気になっているという人が増えている」──人材事業を手掛けるISRパーソネル(神戸市)で代表社員を務める梨本浩士さんは、同社が運営する高齢者向けeスポーツ施設「ISR e-Sports」で人気のゲームについてこう話す。

photo ISR e-Sports

 ISR e-Sportsは同社が7月、神戸市にオープン。完全会員制の“eスポーツ版スポーツジム”のような施設で、60歳以上にのみ会員資格を付与している。施設にはゲーム用のPCを6台設置しており、会員は2時間ごとに区切られた3つの時間帯のうち1つを予約して施設を訪れ、ゲームを遊ぶ。プレイ後には、談話室でコーヒーを飲みながら他の会員と雑談できる。

photo 談話室

 入会費は無料で、利用料は1回1000円(税込)。現在の会員数は約50人で、6割ほどが女性という。梨本さんによれば施設のメインターゲットは定年後のシニア層で「退職したことでそれまでの人間関係が疎遠になっている人に、新たな交流の場を設けたい」としている。

 昨今の時代背景を踏まえ、新型コロナウイルスの感染防止対策にも注意を払っているという。換気の実施や空気清浄機の設置、アルコール消毒や職員のマスク着用を徹底している他、体温の測定も義務付けている。一度に入場できる人数は6人までに制限し、“密”な環境にならないようにしている。

「フォートナイト」で「孫との話題が広がった」という声も

 梨本さんによれば、施設で最も人気のゲームは米Epic Gamesのシューティングゲーム「Fortnite」(フォートナイト)。同作はシューティングゲームの中でもTPS(Third-Person Shooter)と呼ばれるジャンルのゲームで、プレイヤーはキャラクターを三人称視点で動かし、素材を集めて壁や階段、要塞などを作ったり、武器を作って敵を撃退したりする。ゲームモードは3つあり、施設では最大100人が同時に対戦する「バトルロイヤル」モードが人気だ。

フォートナイトのゲームプレイトレーラー

 フォートナイトは、Epic Gamesが19年に賞金総額3000万ドル(約31億円)の大会を開催するなど、競技として人気の高いタイトルでもある。だがISR e-Sportsは、大会で賞金を獲得するプロ選手の育成を目指しているわけではない。ゲームはあくまで高齢者のコミュニケーション手段の1つと位置付けており、プレイ後に同席したメンバーで談笑できるような施設であることに重点を置いている。

 「フォートナイトを始めたことで、会員からは孫との会話の幅が広がったり、一緒に遊べたりするようになったという声も出ている。このようにゲームを通したコミュニケーションを広げていくのがわれわれの狙い」

 ただし、施設ではフォートナイトをはじめとした特定のタイトルを勧めているわけではなく、会員と相談の上、遊んでもらうゲームを決めている。梨本さんによれば、今はメディアの影響でフォートナイトが人気だが、他のタイトルが話題になればそちらに人が流れる可能性もあるとしている。

今後は人材派遣業につなげる方針

 そんなISR e-Sportsだが、将来は会員を、高齢者にeスポーツを紹介する人材として育成し、全国の福祉施設に派遣するなど、ISRパーソネルが別事業として手掛けている人材事業につなげていく方針だ。育成した人材にはeスポーツの普及活動だけでなく、入所者の体調や状況に合わせたゲームの紹介や、プレイの補助なども行ってもらいたいという。

 だが現在はまだその段階に至っておらず、収益化にも結び付いていないという。梨本さんは「すぐに収益化しようとは考えていない。まだ誰もやったことがない取り組みで、道がないところに道を作って開拓しているところ。まずは集まってくださった会員の方々の反応を見ながら、焦らず丁寧に対応している」としている。

 かつて「子どものおもちゃ」とされていたゲームだが、その子どもたちも今や30〜40代以上になり、さらにその上の世代にも広まり始めている。総務省統計局が発表している資料「平成28年社会生活基本調査」によれば、65歳以上の高齢者に人気の趣味トップ3は、「ガーデニング」「読書」「(自宅での)映画鑑賞」。この中に「ゲーム」が並ぶ日も遠くないかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.