これでやってみると見事録音に成功。もちろん相手にも、自分のタイプ音などのノイズは聞こえない。録音にもタイプノイズはない。
これで解決……と思ったのだが、甘かった。
相手の声に少しエコーが乗るのだ。
いろいろ試して分かったことは、本体のスピーカーから音を出すと、マイクがそれを拾ってしまうのでエコーになる、ということだ。
ならば解決は簡単。本体から音を出さなければいい。ビデオ会議中の音はヘッドフォンで聞くことにする。
マイクについては、外付けでも内蔵でもいいと思っている。PCやMacのマイク音質が低い場合には問題が出るのだが、どうもM1版MacBook Proのマイクは音質がかなり良く、ビデオ会議レベルであれば無理して外付けにする必要もなさそうだ。外付けにする場合には、USBマイクをつければいい。Krispはどの入力にノイズキャンセルをかけるのかも設定できるので、そこで「入力」としてUSBマイクを選べばいい。
ここで、Bluetoothマイク内蔵ヘッドフォンを「マイクとヘッドフォンの両方に使う」のはあまりお勧めしない。帯域の問題と、HSPというプロファイルの制約もあって、音質がどうにもイマイチ。ヒアリング用としてだけ使うか、有線で使った方がいい。
ヘッドフォンをつけ、マイクはMacBook Pro内蔵のものかUSBマイクを使い、さらにLoop Back+Krisp。これで、「快適なビデオ会議セット」が完成した。
けっこう面倒だし、何でそこまで? と思うかもしれない。
実はこの手法、少し応用すると「リアルで会って行う場合の取材録音」からもタイプノイズを排除できることが分かってきたから、ここまでがんばってみたのである。
Krispは仮想マイクとして振る舞う。だからマイクからの音声をノイズキャンセルした状態で録音するのは難しくない。「Krisp Microphone」を選ぶだけだ。
だが、それだけではダメな場合もある。
最近の「メモソフト」の中には、録音とタイプを「同期記録」するものがいくつかある。メモを記録していた場所を選ぶと、「その時に録音されていた音声」が流れるようになっているのだ。この手法だと、メモを見ながら内容確認をする際、録音の頭出しが簡単に行える。
「同期記録」メモとして有名なものは「OneNote」だろうが、筆者はMacとiPadの両方で使える「Notability」を愛用している。
とても便利なのだが、「タイプしながら使う」宿命として、録音には派手にタイプ音が入る。ビデオ会議でタイプ音キャンセルの力を知った今、次の不満がここに来るのは必然だ。
ただ、この種のソフトでは「録音対象とする入力」を選べない場合がある。システム設定だけを見ているのだ。しかし、「Krisp Microphone」は「システム設定としての入力」には選べない。
そこで使うのが「Loopback」である。LoopbackでKrispからの出力だけを扱う設定を作っておくと、それは「システム設定としての入力」として使えるのである。
そして、取材時にシステム設定の「入力」をLoopbackで作っておいた設定(ここではKrisp Record)に切り替えて、目的のソフトから録音するのだ。
なお、リアルの取材ではエコーの問題は起きないので、ヘッドフォンを併用する必要はない。
さらに応用技として、先ほど作った「ビデオ会議の音とKrispの音を同時に記録するLoopbackの設定」をここで選べば、「メモソフトにタイプしながら、その音を相手に届けることも、自分の録音に残すこともない」環境が出来上がる。
……おお、これはかなり理想的じゃないだろうか? リアルの取材ではMacBook Proのマイクでは心もとないので、外部にUSBマイクをつけて対応することになるだろう。
ここまでやっても、Intel版の時代と違い、CPUファンがひどく回り出すこともなく、バッテリー消費が極端に上がることない。
前回もこの結論は書いたのだが、正直、このやりかたは過渡的なものだ。
本来は、別のアプリでタイプ音キャンセルをしているのがイレギュラーなのだから。おそらくそのうち、「タイプ音のキャンセル機能を持つビデオ会議サービス」や「タイプ音のキャンセル機能を持つボイスレコーダー」、「タイプ音のキャンセル機能を持つメモソフト」が当たり前の時代が来るだろう。PCやMacのマイクにそういう機能がついてるのが当然になる可能性も高い。
事実、ASUSが先日発売した「ZenBook S(UX393EA)」は、「AIによるノイズキャンセル機能の搭載」をウリにしている。IntelもAMDもM1もSnapdragonも、今の主流のプロセッサは機械学習の推論補助機能を持っており、AIノイズキャンセル程度ならたいした負荷にはならない。
さらには、ノイズキャンセルすらいらず、音声認識までこなす未来もありうる。
一時的なものとはいえ、しかし、「今はない」以上、自分でいろいろやってみることに価値がある。やってみたら思いのほか便利で快適なのも分かってきた。そのトライアルができることは、やはりPC、Macの価値ではあるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR