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NHK再編の狼煙、「Eテレ売却」は妥当か、素人考えか(1/2 ページ)

» 2020年12月10日 08時08分 公開
[小寺信良ITmedia]

 複数のメディアが報じているが、11月末、内閣官房参与に起用された高橋洋一・嘉悦大学教授が「現代ビジネス」にて上梓したコラムが話題になっている。曰く、NHK改革でまず着手すべきポイントとして、Eテレの売却を掲げたのだ。視聴率が低いため電波の有効活用ができておらず、その周波数帯を売却して通信用に利用するというものだ。

 この方策を巡ってさまざまな意見が噴出している。NHK会長の前田晃伸氏は12月3日の定例会見で、「教育テレビはNHKらしさの一つの象徴だと思う。それを資産売却すればいいという話には全くならないと思う」と述べた。

 ネットでもEテレが最も公共放送としての役割を一番果たしているとの意見も見られるところだ。Eテレを放送から外すと、どうなるだろうか。今回はその辺りを深掘りしてみよう。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2020年12月7日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから

Eテレ売却論のそもそも

 そもそもこの考えは何が発端なのか。それを探っていくと、何だか玉突き事故みたいな話だということが分かる。

 まず一つの発端は、現在NHKが提案している、受信料改革にある。テレビ設置に関係なく全世帯から徴収、という制度は11月9日の有識者会議で見送られた。NHKではネットで視聴できるようになった、と主張するが、まだ利用者が限定的であることから、時期尚早という判断である。

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 しかしまだ、テレビ設置の届け出制、受信料支払いの義務化、不払い者に対する割増金徴収といった施策が検討課題として上がっている。

 一方で、NHKはそんなに財政が苦しいのか、という話がある。公共放送なので、必ずしも視聴率に縛られない、自由かつ公平な番組作りを可能にするにはコストがかかることは理解するが、NHK本体ではなくNHKの名前を借りた外郭団体は民間企業と変わらず、高い収益率を誇る。またNHK本体も、2019年度だけで繰越金を1280億円もプールしており、しかも年々増えている。

 必ずしも財政は苦しいわけではない。ただ、払っている人、払っていない人の不公平感はある。NHKなどろくに見ない人でも受信料を払っている世帯がある一方で、地震になればNHKを点けたりアイドル番組を熱心に見たり年の瀬に必ず紅白を見るが、受信料は払っていない世帯もある。

 この不公平感を大きくしている原因は、受信料の高さである。2020年10月の改定後の受信料は、地上契約だけで月額1225円、地上+衛星契約で2170円(口座引き落とし・クレジット払いの場合)は、なかなかの負担である。

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 NHKの受信料改革の根底には、不払い者がいるからこの金額になる、全員から徴収すればもっと受信料は下げられる、というロジックがある。そもそも1000億円以上の繰越金があるなら受信料は1000円下げられるんじゃないかという突っ込みどころもあるが、毎年度カツカツでは困るだろうし、じゃあいくらプールしておくのが妥当なのかというところも、これから詰めなければならないポイントである。

 もう1つの発端は、通信用電波帯域の逼迫がある。携帯キャリアも事実上4キャリアとなり、また世の中的にも通信の比重が大きくなってきているところではあるが、電波のおいしいところは先にサービスが始まったテレビ放送が取ってしまっているので、通信はどんどん高周波帯域に逃げるしかない。しかし高周波は電波が回り込まない、遠くまで飛ばないといったデメリットがあり、必ずしも通信で使いやすいとはいえない。

 そこで出てきたのが、高橋案というわけだ。NHKのチャンネルを減らせば受信料も減らせる。加えてNHKは地上波で2波使ってるので、1波返して通信に使おう。じゃあ総合とEテレどっちをなくすかといえば、視聴率の差からEテレに白羽の矢が立ったわけだ。

 Eテレ自体をなくせという話なのかというと、実はそうではない。テレビ放送をやめて通信で放送すればいいんじゃないか、という話なのである。

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