ITmedia NEWS > 社会とIT >

NHK再編の狼煙、「Eテレ売却」は妥当か、素人考えか(2/2 ページ)

» 2020年12月10日 08時08分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2       

本当にやめるべきところはどこか

 このEテレ売却論は、普段子供がEテレの番組でお世話になっている家庭にはカチンとくる話だ。総合テレビのアイドルやお笑い番組みたいなのは民放でもできるだろうが、教育向けコンテンツを1日中流し続けるとなると、民放にはなかなかできない。

 ただ、放送じゃないと絶対にダメなのか、というとそうでもないだろう。いや、学校でもテレビ放送を利用した授業を展開しているので、今すぐネットへ転換せよというのは、GIGAスクール構想との兼ね合いになってくる。今すぐは無理だが、絶対にその時間に合わせなければならないテレビ放送と違って、いつでもオンデマンドで見られるネット放送のほうが、授業に組み込むには自由度が高まるといったメリットがあるはずだ。

 だが、Eテレ放送をやめれば、の「そもそも」は、そうすれば受信料が半分になるというところだった。筆者もその昔、Eテレの番組をいくつか担当したことがあるが、Eテレで一番お金がかかるのは、番組制作費である。もちろん放送システムとしては、電波塔や放送網の維持みたいなところにもお金がかかるが、それは総合放送の相乗りみたいなものなので、Eテレの放送をやめても維持費はそんなに変わらない。

 空いた周波数をオークションにかけて代金をNHKに渡せば済むと考えているのかもしれないが、制作コストが変わらないのだからそれは一過性のお金にすぎず、受信料に充当して値下げしても、いずれそのお金が尽きたときには元に戻る。チャンネルが減るんだから受信料も半分でいいだろう、というのは、素人が考えた空論にすぎない。

 NHKをスリム化するのであれば、むしろやめるべきは衛星放送だろう。難視聴対策としての地上波サイマルは残すとしても、本放送はEテレよりもはるかに低視聴率だし、8K放送に至っては見られる人がほとんどいない。おそらく東京オリンピックもパブリックビューイングすら難しく、オリンピック後も大して需要は増えないだろう。明日の仕事があるかどうか心配しなければならない人も少なくない中、世界中でどこも乗ってこない、ぜいたくな夢みたいなことをいつまでやってんだよという怒りが湧いてきてもおかしくない。

 他方で電波の有効利用の話をすれば、Eテレが占有している周波数は都道府県によってバラバラなので、通信で使いやすいかどうかは各都道府県でものすごく差が出ることになる。

 まあEテレを停波してテレビチャンネルを全部再編して下の方に詰め、700MHz以上の帯域をガバッと空けるというなら話は分からないでもないが、そうなると地デジになる前の一時的移行手段としてやったような、各家庭チャンネル設定を全部やり直すみたいな施策を国主導でやらねばならず、コストだけでなくわれわれの家庭にも負担がかかる。

 現時点では、Eテレをいじっても本来の目的は達成できない、といわざるを得ない。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.