ITmedia NEWS > STUDIO >

M1 Macは敗れたままなのか? 音楽制作プラグインの負荷を再検証したiOS音楽アプリプロデューサーがM1 Macを使ってみたら(3/3 ページ)

» 2021年01月15日 07時37分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

Logic Proは、個々のプラグインでパフォーマンスに差異が出る

 上記のことから考えられるのは、プラグインが絡んだ場合のLogic Proにおけるパフォーマンスは、個別プラグインの効率性や性能差により左右され、「プログラミング方式の種類」「ユニバーサル化されているから」「Apple純正だから」「メモリの多寡」といったくくりでは単純に比較できないということではないだろうか。

 加えて言うなら、前々回の「最安M1 Mac mini、まだApple Silicon最適化されていないPro Toolsの性能に脱帽」では、非ユニバーサルでありながら、Avidの「Pro Tools」が高いパフォーマンスを示したように、プラットフォームとしての、DAWの性能差も影響しており、M1 MacとIntel Macのパフォーマンス評価は、さまざまな要素が複雑に絡み合い、ケース・バイ・ケースで差が出るということであろう。

 ただ、このような結論を導いた上で、あえて訴えたいのは、音楽制作においては、「M1 Macを使え」という点だ。理由は、「ファンの音が静かだから」、これに尽きる。

 上記のような単純なトラックの再生数競争であれば、メモリを多く搭載できるIntel Macに軍配が上がる場面も多かった。しかし、Intel MacBook Proの方はトラックが増えていくに従い、CPUの温度上昇に伴うファンノイズが気になって、興ざめすることもしばしばだった。一方のM1 Mac miniの方は、再生可能トラック数上限まで高負荷をかけても、終始静かなものだった。

 ファンが高速回転する音は、音楽の録音や再生に悪影響を及ぼすのはもちろんだが、精神衛生上も甚だよろしくない。Intel MacBook Proが「シャーッ!」という音をたて始めると、録音していても、いつ止まるのではないかと気が気でない。

M1 Mac非対応のPro Toolsの優秀さが際立った

 上記とは別に、M1 Mac miniにおける、Pro Toolsの限界パフォーマンスの検証も実施した。1月中旬時点でのPro Toolsのバージョンは「2020.12」で、Avidのリリース情報を見ると、「macOS Catalina (10.15.7)、macOS Mojave (10.14.6)および High Sierra (10.13.6) がサポートされます」とだけ記載されており、Apple Siliconはもちろん、macOS Big Surについても、一言も触れられていない。つまり、双方ともに正式には非対応ということだ。

 それでも、Pro Toolsは、M1 Mac mini上で驚くべきパフォーマンスを示した。96kHz/24bitのPCMファイルを読み込んだトラックに、「D-Verb」(Avid純正、アルゴリズム型)や「Space」(Avid純正、コンボリューション型)を設定してトラック数を増やしたが、上限の64トラックに達しても、何の問題もなく、連続再生が可能だった。

photo
photo Avid純正のリバーブプラグイン「D-Verb」(アルゴリズム型)と「Space」(コンボリューション型)を再生可能上限の64トラックまで設定したが、問題なく再生が可能だった

 「上限64トラック」というのは、筆者が導入している、“素"のPro Toolsの場合、96kHzの音源ファイルだと64トラックまでしか再生ができないからだ。さらに、前出のLogic Proのテストの様に、192kHzの音源も使用していない。これは、Avid純正の「Space」が96kHzまでしか対応していないためだ。一方の、Intel MacBook Proの方は、D-Verb(アルゴリズム型)は比較的静かだったが、Space(コンボリューション型)において、ファンがやかましいくらいに高速回転して、使っていて萎えてしまった。

photo M1 Mac miniでPro Toolsを走らせ64トラックに「D-Verb」(アルゴリズム型)を設定して再生した場合のシステム使用状況。CPUもメモリも余裕がある
photo こちらは、M1 Mac miniでPro Toolsを走らせ64トラックに「Space」(コンボリューション型)を設定して再生した場合のシステム使用状況。CPU、メモリともに、余裕がない。コンボリューション型リバーブがリソースを多く消費することが分かる
photo 32GBメモリのIntel MacBook ProでPro Toolsを走らせ64トラックに「D-Varb」(アルゴリズム型)を設定して再生した場合のシステム使用状況。M1 Mac miniよりもCPUへの負荷が高い。さすがにメモリは余裕がある
photo 32GBメモリのIntel MacBook ProでPro Toolsを走らせ64トラックに「Space」(コンボリューション型)を設定して再生した場合のシステム使用状況。「D-Verb」に比べ、CPU、メモリともにリソースを多く消費している

 ちなみに、Pro Toolsは、DSPをたくさん搭載したHD系のアクセラレター等を別途導入することで最大192チャンネルをサポートし、プラグインもてんこ盛りで利用可能だが、それを実現するためには、数百万円の投資が必要であることは申し添えておく。

 Pro Toolsに限らず、現状、Apple Siliconに正式対応していないDAWやプラグインは多い。だが、順次対応が進むことで、M1 Macのパフォーマンスをフルに引き出す環境が整っていくことだろう。加えて、現状では、メモリを最大で16GBしか搭載できないが、メモリのさらなる増設が可能になった暁には、音楽制作におけるM1 Macのポジションは、信頼に足るものになるのではないか。そして何度でも言うが、「ファンの音が静か」というのは、DTMユーザーにとっては、何にも代えがたい「正義」ではないだろうか。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.