いずれにせよ、スマホ上でのモバイル決済サービスが(アクティブな)ユーザーに比較的近い立ち位置にいる一方で、銀行側ではその接点をあまり持っていない。
これがドコモ口座などの問題を通じて銀行間でのセキュリティ意識の差になって表れたり、あるいは「いざというときに連絡がつかない」という事態につながる。
ゆうちょ銀行ではドコモ口座などでの不正引き出し事件を受け、Web口座振替などの仕組みを利用している全ての口座に対して郵便通知を送付し、情報提供を求めるという手段を採った。コストと時間の負担が非常に大きい方法だが、現状で銀行が直面している問題の一端を示している。
Web口座振替はその性質上、リクエストがあった段階で即座に本人確認が完了しなければ使い勝手が悪い。仮に郵送で登録住所に確認書を送ったり、登録電話番号を呼び出して確認したりすれば安全性は高まるが、仕組みとしては不合格だろう。クレジットカードでさえ最短5分で即時発行できる時代には不釣り合いだ。
つまるところ、「ネット上で利用できる手軽で確実な本人確認手段」「状況に応じて最新状態にアップデートされている本人の連絡手段」の2つが欠けていることが、安全で利便性の高いモバイル決済サービスの登場を妨げている要因の一つだと考えられる。
先日、「2020年のキャッシュレス業界 けん引したのは結局クレカ 」というコラムをまとめたが、あれだけ19年から20年にかけてQRコードやバーコードを使ったコード決済(アプリ決済)がキャンペーンを展開していたにもかかわらず、依然として日本におけるキャッシュレス決済の主役はクレジットカードだった。
もちろん、コード決済の“ソース”に銀行口座からチャージした残高ではなく、クレジットカードをひも付けているというケースもあるだろう。また「上限が決まっていて少額決済中心の電子マネーやコード決済と比較して、クレジットカードの方が決済金額が大きく出るのは当たり前」という意見もいくつか見たが、複数の店舗や決済サービスの生データを確認する限り「そもそも同じ商店での買い物に使われる決済手段の9割以上がクレカ」なのであり、単価の有利不利以前の問題だ。
つまり、コード決済などをアクティブに使い、銀行がアクセスにそれほど労を費やさない層というのはキャッシュレス全体の1割ないしはその2倍程度で、マイノリティーにすぎないというのが筆者の考えだ。人口でいえば多くて1000〜2000万程度だが、PayPayのアカウント数が20年夏に3000万突破だったことを考えれば、アクティブな層というのは多くてその半分程度ではないかと予想する。
クレジットカード決済はある程度日本に根付きつつあると考えている。利用できる場所は現在もなお増え続けているし、非接触の“タッチ決済”のようなものも増えてきた。
もともと諸外国でのカード決済といえばデビットカードが中心だが、日本ではクレカ決済の大部分が翌月一括払いのマンスリークリアであり、使い勝手としてはほぼデビットカードと同等だ。与信の有無という問題はあるが、その解決手段も登場しつつある。
とはいえ、まだまだ数百円程度の決済にクレカを使うことに抵抗のある人も少なくないと思われ(実際、筆者は1000円未満は電子マネー支払いにすることが多い)、決済手段の幅が広いに越したことはない。カード発行会社にしても、今後モバイル決済の普及により手数料経由で銀行が潤うにしても、決済回数を増やさなければビジネス的なメリットは薄い。
ドコモ口座を発端にした一連の事件は不幸ではあったが、これを機会に業界が取り組みを見直し、新たなビジネスチャンスとできるかが問われる。
その意味で、地銀再編をうたう菅義偉内閣がこの2021年のタイミングで到来したのは、銀行にとっても正念場といえるかもしれない。「2021年のキャッシュレス業界 銀行の逆襲が始まるか」でも触れたが、銀行は新たな収益源を探す旅の途中にあり、モバイル決済はその候補の一つとなる。
一方で、現状の銀行のやり方では不十分で、例えば「J-Coin Pay」や「Bank Pay」のような銀行発のサービスがやってきたとしても、ゲームチェンジャーにはなり得ない。理由は簡単で、まだまだユーザーとの距離が遠すぎるからだ。
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