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「nasne」復活の裏側で何があったのか バッファロー・SIEのキーマンに聞く(1/2 ページ)

» 2021年03月17日 10時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2012年に発売したネットワークレコーダー「nasne」(ナスネ)。19年に出荷を終了して以降、多くのファンが復活を望んでいたが、バッファローがその新モデルを発売すると発表したのは20年10月のことだった。

 新しいnasneのハードウェアは、すでに生産を終了しているSIEからノウハウを継承したバッファローが開発し、21年3月末に税込2万9800円で発売。SIEはコンパニオンアプリ「torne」(トルネ)の開発やネットワークサービスの運営を継続する。

photo 3月末に復活するnasne

 この異色のコラボレーションはどのようにして生まれ、いかにして製品化に漕ぎつけたのか。バッファローとSIE、両社のキーマンに話を聞きながら、nasneの終焉と復活、そして新しいnasneについて探っていく。

「nasneを残したい」思いが重なり生まれたタッグ

 そもそもSIEがnasneの販売を終了したのは、使用している半導体チップのメーカーが、後継チップの開発を断念したためだ。その半導体メーカーは17年に解散。事業や知財を継承する会社も出て来ず、結果として19年6月末の出荷がnasne最後のロットとなった。

photo SIEの西野英明さん

 基幹となる集積回路が調達できない以上、nasneの販売を継続するには、新しいSoCを使った新世代のnasneを開発しなければならない。しかし当時のSIEはPlayStation 5の開発に追われていた他、動画配信サービスの普及によりテレビ録画を使う人が減っていたことから、新規の開発を断念せざるを得なかったという。

 当時の判断について、SIEの西野秀明さん(シニアバイスプレジデント)は「自分自身がnasneのヘビーユーザーだったため、決断は難しいものだった」と振り返る。

 一方、バッファローの和田学さん(常務取締役 事業本部副本部長)はnasneの出荷が終了するというニュースを聞き、なんとかnasneとtorneを残せないかと考えていた。そこでバッファローが事業を継続できないかどうか、実際にSIEに働きかけることを決めたという。

 「自分自身がユーザーだったため、nasneとtorneの快適さは身に染みていた。(PlayStation 3用チューナーとセットの)torneが発売されたとき、専用のHDDを販売しないかとSIE(当時はソニー・コンピュータエンタテインメント)から声をかけてもらい、対応を行った思い出深い製品でもあった」(和田さん)

根強いニーズが復活を後押し

 とはいえ、事業の継承は”やりたいからできる”と言うほど簡単な話ではない。バッファローは新規開発にかかるコストや、流通に乗せて在庫を持つリスクを抱えることになる。SIEにも開発のノウハウをバッファローに提供するためにエンジニアを割り当て、torneの開発を継続的に行う責任が生じる。

 しかし和田さんは、それでもnasneにはバッファローが事業を継承する価値があると考えていた。その理由は、同社製品のユーザーから届く声にあったという。

photo バッファローの和田学さん

 「バッファローではnasneに接続する外付けHDDを販売していたが、そのユーザーから今後も販売を続けてほしいという声や、nasne本体の出荷完了を惜しむ声が届いた。ネット上でも同様の意見が見られた他、当社が販売している別のHDDの用途を聞くアンケートを行ったところ、nasneを選ぶ人が一定数いた」

 そこでSIEへの働きかけを続けた結果、19年11月に西野さんとコンタクトを取ることに成功した。西野さんは和田さんと初めて話をしたときのことをこう話す。

 「PlayStationシリーズのコアなユーザーには、nasneやtorneのファンが多く、そういったユーザーは大事にしていきたいと思っていた。そんなタイミングで(和田さんに)声を掛けられたため。断るという考えは思い付かなかった。むしろ、nasneとtorneを残したいという気持ちに感謝した」

 一方で、SIEにはバッファローからの働きかけ以外にも、nasneのニーズを確信する根拠があったという。それは19年の出荷終了以降も、コンパニオンアプリであるtorneを根強く使い続けるユーザーがいたことだ。

photo SIEの石塚健作さん

 nasneのソフトウェア開発に携わっていたSIEの石塚健作さん(torneアプリ開発責任者)によれば、iOS/Android向けに提供しているスマホアプリ版も含めると、torneの利用時間は出荷終了前とほとんど変わっていないという。ユニークユーザー数も変化していなかったため、熱心なファンがいることが分かったとしている。

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