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招待制の写真SNS「Dispo」読本(前編) 使い捨てカメラ、トイカメラとはまた違う魅力の撮影アプリ(2/4 ページ)

» 2021年03月17日 09時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 Dispoも、当初は単なるトイカメラアプリの一つでした。ただ、このトイカメラアプリと呼ばれるジャンルの製品は、名前こそトイカメラですが、トイカメラとは全く別物です。何せ、iPhoneの優秀なレンズとセンサーを使ったフルオートで、何より失敗がありません。そこに、フィルターなどで加工して、それっぽい写真をシミュレートするものが主流でした。

 その意味ではDispoはなかなかに新しく、まず、撮った写真はすぐに見られないどころか、トリミングも加工もできません。もちろん、フィルターを選ぶこともできないので、いわゆる「LOMO」風、「HOLGA」風といった方向性の設定もできません。ユーザーにできるのは、構図を決めてシャッターを押すだけです。しかし、そこはiPhoneのカメラですから、かつてのロシアカメラのような失敗はありません。写ルンですと比べても、はるかにきちんとピントが合うし、露出も正確です。

 それでも、なんとなく味がある風に撮れるのは、どうやら、光の量によって、微妙に露出をアンダーにしたりオーバーにしたり、コントラストが低い場合、さらにコントラストを下げたり、高い場合はよりコントラストを上げたりといった調整を行っているからのようです。

 さらに、あえて望遠レンズを使わず、基本、レンズは一つだけで、ズーム機能は単に解像度を下げることで実現しているので、望遠で撮れば自動的に画面が荒れるようです。また暗所で撮ったらISOが上がるので、やっぱり画面は荒れます。日中に適性露出で画角も35mmくらいで撮ると、普通にキレイな写真が撮れるのは、そのためだと思われます。

photo 露光不足の上にズームアップして撮ったので、かなりザラザラした質感になった。絵画的と言えばいえるか

 つまり、DispoというアプリはDispoという撮影環境をiPhoneの中に出現させるアプリなのです。そして、その重要な点は加工も撮り直しもできないこと。それを実現するための方法論としての「使い捨てカメラ風」であり、Dispoという名前なのです。

 この、ユーザーは撮影するだけで、後は手出しが出来ない、という状態を作ることで、撮る面白さ、被写体を探す楽しさ、撮った後は何もしなくて良い気楽さ(フィルムカメラと違って、フィルムを買ったり、出し入れしたり、ラボに持っていったり、上がりを取りに行ったりもしなくて良いのだ!)、お金がかからないから何枚でも撮って良い気軽さ、出来上がった写真を見る楽しさ、といったことを実現しているのです。つまりは「写真を撮る行為全体のバーチャル化」ですね。

 Dispoの考案者であるデビッド・ドブリク氏は、Instagramにトイカメラで撮った写真をアップし続けているのだそうです。その行為は、多分、うっかりきちんと撮れてしまうiPhoneのカメラの優秀さや、いくらでも撮り直せて、撮った後の加工も可能なInstagramへの不満の現れのようにも見えます。実際、ロシアカメラのブームや、現在の若い層を中心とした写ルンですやフィルムカメラへの回帰は、懐かしさやアナログ回帰というよりも、誰でも同じような写真が撮れてしまう優秀なカメラでは撮れない写真を撮りたいということではないかと思うのです。

 ついでに、後から加工することが面倒くさくなったということもあるかも知れません。フィルムカメラなら、「どう写ってるか分からないから」と、写りが悪い時の言い訳にだって使えます。そういう意味でも加工の必要がありません。何より、ちょっと他とは違う色合いと質感で、無加工の生々しさは目立ちます。この剥き出しのセンスと偶然性だけが表に出るリアルさを、人は「エモい写真」と表現しているのだと思います。

 Dispoは、その個人の生々しいというか、個性とセンスが剥き出しになった、その人そのもののような写真を撮ることができます。つまり、トイカメラのような写真が撮れるアプリではなく、トイカメラで写真を撮る楽しみを再現したアプリなのです。

photo 個人的には、エモいというより、どちらかというと変だったり、クールな感じだったりの写真が撮りやすいように思うが、そういう個性が出やすいということかもしれない

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