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招待制の写真SNS「Dispo」読本(前編) 使い捨てカメラ、トイカメラとはまた違う魅力の撮影アプリ(1/4 ページ)

» 2021年03月17日 09時00分 公開
[納富廉邦ITmedia]

 ITガジェットから文房具などの小物まで幅広いジャンルで活躍するライターの納富廉邦さんに、招待制の写真SNS「Dispo」(ディスポ)の魅力について、前後編でたっぷり語ってもらいます。


 

 DispoというiPhone用アプリがあります。

 招待制のSNSアプリだということもあって、少し話題になったのですが、Clubhouseなどと違い、ほぼ写真によるコミュニケーションのみで、しかも、とにかく写真を撮らないと何も始まらないツールだったせいか、芸能人であろうとネットの有名人であろうと、それまで培ってきた人脈やフォロワーも、ほぼ意味を成さないせいか、一部の写真好きが盛り上がっている程度で、いまひとつ、詳しい使い方や楽しみ方などが書かれたレビューも増えません。

 まあ、それはそれで仕方ないかなと、がっつりとハマっている私でさえ思うのは、このアプリが多分、お金をあんまり生まないだろうということと、Dispoの世界で有名になるのは、とても難しいシステムになっている上に、有名になっても、特に良いことはなさそうだという理由からです。

 とはいえ、このアプリ、面白くないかというとそんなことは全然ないどころか、こんなに面白いSNSアプリはないというか、それこそ、Twitterが登場した時以来の、「ああ、こういう楽しみがネットの世界にはあるのか」という新鮮な驚きを伴う楽しさがあります。だから、いろんな人に使ってみてもらいたいなあと思うのです。

photo Dispoというアプリはいくつかあるので注意。この緑のアイコンが目印

 Dispoについて語られる際のキーワードになるのが、「写ルンですやトイカメラのような写真が撮れる」ことと「撮影した写真は翌午前9時にならないと見ることができない」ということでしょう。その両方を合わせて「アナログ的」「エモーショナル的」というイメージが流通している感じです。

 その、写ルンですやトイカメラのような写真とまとめて語られていますが、これ、知っている人には自明ですが、写ルンですは、その名の通り、比較的誰が撮っても「写る」のがウリでした。一方でトイカメラは、ちゃんと撮ろうとすると本当に「写らない」、または、普通に写ってしまって「トイカメラらしさ」が出せない、というようなもので、全く別物だったのです。

 もはや、多くの人が忘れているのですが、長い間、写真を撮るというのは難しいことだったのです。どんなカメラでも、ピントを合わせて、絞りとシャッター速度を決める必要がありました。そして、手ブレしないように、また逆光にならないように、暗すぎないように、といった注意を払いつつ、うっかり指が入ったりしないようにしながら、そっとシャッターを押すと、まあ、大体、どうにか見られる写真になる、という、とても面倒なものだったのです。

 それをどうにかしようとしたのがコンパクトカメラや「写ルンです」などのレンズ付フィルムでした。大体35mm程度の広角気味のレンズを使い、絞りが5.6から8くらいで、シャッター速度は125分の1くらいに固定することで、ピント合わせも露出合わせも不要にして、大体、3m前後から、10mくらいまでならピントが合っているように見えるし、日中の外でなら、露出も大体合うし、シャッター速度も手ブレしない程度に速いから、何となく写るよ、という製品だったのです。だから、使い捨てなのに「写ルンです」という名前で、しかも、難しい一般のカメラよりはるかに失敗しない(ここで言う失敗とは、何が写ってるのかさえ分からない写真のことです)。

photo Dispoで撮った写真の例。こんな風にコントラスト低めの風景だと、写ルンですとは違って、シックな仕上がりになったりもする

 一方でトイカメラですが、これは正確には、ロシアカメラというべきなのかも知れません。1983年に、日本のコシナCX-2のコピーとしてソ連で作られた「LOMO LC-A」の、逆行や露出アンダーで撮ると周辺光量落ちが激しく、しかし、発色は良いレンズによって撮られた写真が、何とも味わい深いと、プロを含む一部のカメラ好きが、80年代の終わり頃にロシアカメラに目をつけたのが、その始まり。

 当初、生産を中止していた「LOMO LC-A」が中古やデッドストックでしか手に入らなかったのもブームに火をつけました。そして、「LOMO SMENA 8M」や「AGAT18K」、香港生まれの「HOLGA」などの、クセのある写りが楽しいカメラに、多くの人が飛びつきました。そしてソ連も崩壊し、デジカメが1000万画素の時代に入る2006年には中国から「LOMO LC-A」の復刻版「LOMO LC-A+」が発売されました。

 この頃、よくネットで見かけたのが、「LOMOを買ったのに普通の写真しか撮れません」とか「HOLGAが室内では真っ黒にしか写りません」といったユーザーの声。そう、トイカメラでトイカメラっぽい写真を撮るのは、かなり難しかったのです。ただ、フィルム5本も撮っていれば、数枚はそれっぽい写真が撮れますし、手ブレやピンボケを「アナログの味」と言い張ることもできたので、ネット上には、そういう「成功例」だけが載って、誤解が解けないまま、時代は、トイカメラアプリまで生んでしまいます。

photo 上が「LOMO SMENA 8M」、下がハーフサイズの「AGAT18K」。どちらも今でも人気が高いロシアカメラの名機だが、やっぱり撮るのは難しい
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