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Clubhouseはラジオ業界の“黒船”か 番組制作の現場の視点は(2/3 ページ)

» 2021年03月26日 07時00分 公開
[樋口隆充ITmedia]

Clubhouseはラジオの敵か、味方か

 生放送という点で似ている点もあるClubhouseはラジオ業界にとって敵になるのか、味方になるのか。率直な疑問を2人にぶつけてみた。

 橋本さんは「味方だ。トータルでは音声メディアの可能性に気付かせてくれ、業界にとってプラスだった」と話す。福井さんもその考えに同意した。音声コンテンツの代表格として、若者を中心に認知が進んだからだ。特に業界内にあった「若い世代は音声を楽しめない」という諦めムードを払拭できたことに手応えを感じているという。

 「Podcastの時はまだ、生放送は無理だという人がいた。『いつでもどこでもアーカイブで聞けるのが今の時代に合っている』と。ラジオ単独での若い世代への浸透はなかなかできなかったが、Clubhouseのおかげで生放送の魅力が伝わり、ラジオ業界の人間としてうれしい」(橋本さん)

radikoがブレークスルーにならなかった理由

 技術的な視点からもClubhouseは優れた音声アプリとみているという。

 福井さんは「音質がよく、非常にスムーズに掛け合いができる」と高く評価。ラジオの生放送は音の送信が0.1秒遅れただけで会話のキャッチボールが詰まるくらいだといい、ラジオ局は音質と遅延の少なさを重視する傾向が強い。

photo インタビューに応じる福井さん

 2年前まではスマートフォンを生放送に使うことは考えられなかったが、端末の性能も向上。TBSラジオでもさまざまな端末やツールを試し、「iPhoneのFaceTimeが音質・接続も安定している」「ZoomのカメラをOFFにすればスムーズだ」などの議論を重ねた。

 そうしたツールと比較し、福井さんは「Clubhouseはとてもシンプルで使いやすかった」と語る。現時点で音質、掛け合い可能なスムーズな伝達において放送でも使える合格レベルという。だが、オーディオインタフェースの認識にバラつきがあり、Clubhouseも公式な仕様を明示していないため、局内ではiPhoneの生放送での活用に向け、手探りの状況が続いている。

 TBSラジオはこれまでもデジタルツールを活用したコンテンツ作りに取り組んできた。その取り組みの一つがPodcastの活用だ。2005年から16年まで10年以上にわたってコンテンツを配信し続けた。橋本さんによると「コンテンツ数や再生数は世界全体でもトップクラスだった」という。

 10年にはネット配信サービス「radiko.jp」(ラジコ)もスタート。スマートフォンが日本でも普及し始めたタイミングで、専用アプリから全国のラジオ局の番組を視聴できるようになった。福井さんは「インターネットでラジオ番組が聞ける日が来るとは思わなかった」と振り返る。橋本さんも「ラジオは致命的なくらい古いメディアだと思っていた。友達が自分の仕事を認識する日が来るとは思わなかった」と話す。

photo radiko

 「若者のテレビ離れ」が叫ばれる以前から、ラジオ業界も同様に若者を中心とした新規ユーザー獲得に苦戦していた。そうした状況下で、Podcastやradikoをブレイクスルーとして生放送の視聴者増加につなげようとしたが、ラジオ局側は必ずしもうまくいったとは言い難いとみているようだ。

 「これまではユーザーが少ない理由を地域や電波受信器側のせいにしていた。radikoの登場でやっと時代に追い付けたと思ったが、結局radikoを利用するのは、もともとラジオを聞いていた人だった」と橋本さん。コンテンツの弱さとプロモーション面に課題があったという。「コンテンツの中身も昔と同じだったし、番組個々でプロモーションをしていて、もっと大きな視点での見せ方ができていなかった。Clubhouseのようにハード面、ソフト面がまとまった大きなムーブメントを作らないといけなかった」と指摘する。

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