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VL-Bus登場前夜 GUIの要求と高精細ビデオカードの台頭“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(2/4 ページ)

» 2021年03月29日 13時34分 公開
[大原雄介ITmedia]
  • Digital Research GEM(写真2):1985年2月にリリースされた、DOSの上で動作するVDI(Virtual Desktop Interface)。Digital Researchはこの時期、MS-DOSへの巻き返し案として、CCP/M-86(Concurrent CP/M-86)というマルチタスク可能なCP/M-86をリリースしており、この上で動くPC-MODEというMS-DOS互換の環境を利用して複数のMS-DOSアプリケーションが同時に稼働可能になっていた。これを進化させたConcurrent DOS 4.1のGUIとして投入されたのがGEMという形だ。ただ最後までDOSの上での環境でしかなく、制約がかなり多かった。
photo 写真2:ADIのモニターが懐かしすぎて泣ける。見た目はかなりMacintoshに近い。出典はWikipedia
  • QuarterDeck DeskView(写真3):QuarterDeckが1984年にリリースしたDesqというマルチタスク対応のSwitcherに後追いの形でパッケージされたGUIというか、CUI。IBMのTopViewとの互換性もあるマルチタスクツールであるが、DeskViewが強かったのはメモリ管理周りで、これを単体で切り出して発売したのがQEMM(Quarterdeck Expanded Memory Manager)である。とはいえ、DOSベースで動くアプリケーションだったため、Windowsには勝てずに消えていった。
photo 写真3:つまるところ最大のネックはメモリであり、ここにQEMMを提供できたDeskViewが相対的に一番使い物になったとはいえるのだが、どんぐりの背くらべというべきか。出典はWikipedia
  • Borland SideKick(写真4):厳密にはこれはGUIツールでもなければマルチタスクツールでもないのだが、当時の状況だとメモリ制限が厳しすぎて本格的なマルチタスクなど不可能というのが正直なところだった。そこでできることを「電卓・メモ帳・予定表・アドレス帳」程度に絞り、その代わり利用するメモリ量を徹底的に減らし、TSR(Terminate and Stay Resident:メモリ常駐型)としていつでもキーをポンとたたくだけで呼び出して使えるようにしたのがこのSideKick。これだけでも当時としては画期的だったが、Windows時代では不要となり、消えていった。
photo 写真4:これにヒントを得て、この後多数のTSRタイプのソフトが世の中に出回ることになる。出典はWikipedia

 いや、正確には、Microsoftは1983年にWindows 1.0をリリースしている。ただこのWindows、GUIとはいいながらもDOSの上で動いているために利用できるメモリ量が大変に少なく、それもあってWindowsを動かすだけメモリを使い切りかねないというレベルで、この上でまっとうにアプリケーションを動かすなど夢のまた夢であった。

 もちろんこの辺りは1984年発売初代のMacintosh(メモリ128KB)も似たようなものであり、結局512KB版が1985年に登場するが、当時この512KBのMacintosh(Fat Macという愛称だった)のメモリを2MBまで増やすサードパーティー製キットとかが売られていた記憶がある。

 GUIにしてもマルチタスクにしても、とにかく必要なのはメモリであり、これが最大で640KB(実際はここまで増やせない)に制限されていた当時のPCでは、まともなマルチタスクかつGUIな環境を稼働させるのは無理もいいところであった。

 最終的にこの問題はWindows NT系列(とOS/2 2.x系列)が出てやっと解決に向かうが、そこまでの間は「いかにメモリをやりくりして、メモリ不足をごまかすか」の戦いであり、CUIをベースとしたウィンドウシステムであったのも無理ないところである。それもあってこの当時、PCはまだDOSベースのままだったし、CUI環境が主体であることに変わりはなかった。マウスについては、一部のアプリケーションでそれをサポートした、という程度でしかない。

 ただDOSとCUIの環境であっても進化はしていく。MacintoshはWYSIWYG(What You See Is What You Get:画面と印刷物の解像度をきちんと管理することで、画面で表示されたものがそのまま等倍で印刷される)にこだわった一方で、Macintosh IIが出るまでのコンパクトMacは画面サイズが512×384ピクセルと小さく、それもあって大きな表計算とかはかなり苦痛があった。対してPCの場合、互換メーカーが大画面に対応したビデオカードを初期のころからリリースしている。

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