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Visaタッチ対応改札の実証実験がスタート 反応速度は? 設置した南海電鉄の狙い【動画あり】(2/3 ページ)

» 2021年04月05日 19時45分 公開
[石井徹ITmedia]

交通系ICと処理速度の比較は?

 日本でQRコード乗車券やタッチ決済を導入する場合に挙げられるのが、処理速度の課題だ。確かに、Visaのタッチ決済は交通系ICカードよりも処理速度の面では不利になっている。

 日本で広く使われている交通系ICカードは、JR東日本が開発したSuicaをベースとした共通規格(いわゆるサイバネ規格)を採用している。この規格では首都圏の通勤ラッシュを確実にさばけるように、改札処理が200ミリ秒以内で終了するという厳しい基準が設けられている。

Google PayでのVisaタッチ利用時は端末のロックを解除する必要もあり、モバイルSuicaのような手軽さにはならない

 一方で、Visaのタッチ決済のように、欧米で使われているNFCによる改札システムでは要求仕様が500ミリ秒以内など、比較的緩やかなものとなっている。南海電鉄が導入したシステムも、おおよそ300〜500ミリ秒で処理が完了する仕様だ。

 さらに、Visaのタッチ決済は、交通系ICと比べると非接触決済が反応する範囲が狭く設定されている。PiTaPaやSuicaなどと同じ感覚で使うと、改札機から離れ過ぎて時間がかかるというケースもあるだろう。

QRコードは読み取りから認証までは早いものの、ユーザーが表示する手間はかかる

 一方で、QRコード改札については、処理時間は150〜160ミリ秒と交通系ICと遜色ない範囲になっている。今回の仕様ではあらかじめ発行したデジタルチケットを改札機側で認証するだけの仕様となっているため、運賃計算などの処理が発生しない分、高速で処理ができるものと思われる。

辻本教秋課長(鉄道営業本部 統括部)

 ただし、QRコードは画面に表示する必要があり、読み取り機が反応しやすいようにかざす必要もある。乗客にとっては操作の手間がかかるため、こちらも大量の乗客をさばくには不向きといえる。

 南海電鉄としては交通系ICカードを置き換える目的ではなく、既存の手段に追加で導入して利便性を高めることに主眼を置いている。今回の実証実験を担当する南海電鉄の辻本教秋課長はVisaのタッチ決済について「本当にラッシュ時に耐えられるのかは誰も検証したことがない」としつつ、実証実験を通して処理速度や安定性を見極めたいと説明している。

速度面で不利でもVisaのタッチ決済に対応する理由

 クレジット決済を交通や乗車に利用する仕組みは「オープンループ」と呼ばれており、日本ではVisaが導入に積極的だ。

 Visaのタッチ決済は高速バスなどで導入事例があるものの、鉄道では京都丹後鉄道が普通列車の車内端末で導入するにとどまっている。南海電鉄の事例は駅の改札機で一般に利用できるVisaのタッチ決済の導入事例として全国初となる。また、規模の大きいターミナル駅での導入となる点も先例とは異なる。

南海難波駅

 南海電鉄はすでに全国交通系ICカードのPiTaPaを導入しており、ICOCAやSuicaなども利用できる状態となっている。今回の実証実験では既存の交通系ICカードに加えて、新しいタッチ決済を導入する形となる。

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