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Visaタッチ対応改札の実証実験がスタート 反応速度は? 設置した南海電鉄の狙い【動画あり】(3/3 ページ)

» 2021年04月05日 19時45分 公開
[石井徹ITmedia]
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今回のVisa/QR改札は既存の交通系ICとは互換性がない。フロアサインで識別できるよう工夫している

 南海電鉄がすでに交通系ICカードが使えるなかで、あえてVisaのタッチ決済を導入する背景には、インバウンド対応という課題がある。

 海外ではVisaのタッチ決済は公共交通での利用が進みつつある。シンガポールやオーストラリア・シドニー、米ニューヨーク、英ロンドンなど大都市の地下鉄で導入実績がある。

 こうした都市から来た観光客にとっては、Visaのタッチ決済はなじみのある乗車手段といえる。南海電鉄が対応することで、わざわざ切符を購入する手間もなくなり、利便性が向上するだろう。

南海は空港連絡特急「ラピート」を運行し、大阪と関空をつなぐ足となっている

 南海電鉄は関西の玄関口となる関空アクセス線を抱えている。現在は新型コロナウイルス感染症の流行で訪日外国人客は激減している状況にあるが、近い将来の2025年には「2025年日本国際展覧会」(大阪・関西万博)という、世界中から訪れる多くの人を出迎える機会もある。インバウンド需要の回復を見据えて、このタイミングで実証実験を開始したというわけだ。

 辻本課長は「Visaのタッチ決済を鉄道の改札で利用するのは国内では初の事例となる。12月12日まで約8カ月間という長期の実証実験で、技術的な要因の洗い出しも含めた検証を重ねたい」と抱負を語った。

 今回の実証実験で使われる改札機は、乗降客数が多い南海難波駅や関西国際空港駅、観光客が多い高野山駅など16駅に限定して設置される。改札のタイプは2種類あり、Visaのタッチ決済とQRコードのみで通れる専用型と、既存の改札機にVisa/QR改札の機能を追加した併用型を運用する。

 専用型は自動改札機メーカーの高見沢サイバネティクス製ではあるが、オフィス用の入場ゲートをベースとして改札機に仕立てている。併用型の場合は、オムロン製の改札機と連動するようポール型のVisa/QR読み取り機を設置する形だ。

既存の改札機と連動するポール型も展開

 改札システムはQUADRAC(東京都港区)が提供する鉄道向けクラウド型決済・認証システムを利用しており、サーバとの通信はモバイル通信(4G LTE)で行っている。実際の運用に耐えうるものかを検証するため、改札設置駅の16駅の中にはモバイル通信が行き届いていない高野線の山岳区間(九度山駅と高野下駅)も含まれている。

 実証実験の結果を通して、鉄道の乗車にVisaのタッチ決済が導入されたとしても、それが直ちにSuicaなど交通系ICカードを置き換える仕組みとはならないだろう。一方で、Visaのタッチ決済には、海外で利用されている鉄道の乗車方法がそのまま日本でも利用できるという点で、鉄道会社にとってサービス向上というメリットがある。訪日外国人の需要が多い空港アクセス線や観光地の路線では、交通系ICにプラスする乗車手段として、利用が広まっていくこともありそうだ。

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