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AppleとSpotifyのストリーミング報酬比較で浮かび上がる、音楽コンテンツビジネスの次の戦略(1/2 ページ)

» 2021年04月30日 11時24分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 米Wall Street Journal(WSJ)が、「Appleは、ストリーミングの報酬を1回当たり約1円支払い、Spotifyの2倍に相当する」といった内容の記事を報じた。果たしてこの数字は、信用できるのだろうか。音楽ビジネスにおける筆者の長年のパートナーである、あるレーベルのトップ、田中氏(仮名)が、配信ビジネスの実績を元に、この記事について感想を語ってくれた。以下は、田中氏への聞き取りを基に、一問一答の文章としてまとめたものだ。

―― WSJの報道についての感想はありますか?

田中氏 「1回当たり1円」という表現は、微妙な気がしますが、SpotifyよりApple Musicの方が1ストリーミングあたりの支払い単価が多いのは事実です。ただ、弊社は、約2500曲を提供している弱小レーベルです。数十万、数百万曲を提供している大手レーベルやビッグアーティストの事例と同列に語ることができない点は、承知してください。

―― SpotifyとApple Musicでは、具体的にどの程度の差があるのですか?

田中氏 この表をご覧ください。プラットフォーム側が支払う、弊社楽曲の1ストリーミングあたりの平均単価です。2020年の第4四半期で比較すると、Apple Musicが0.76円、Spotifyが0.28円ということで、3倍近い開きがあります。ただし、弊社のような弱小レーベルは、プラットフォームと直接取引できません。間にアグリゲーターが入り、2割の手数料が引かれた金額がレーベルに入金されます。

photo 図1:2017年から2020年の第4四半期のSpotifyとApple Musicの1ストリーミングあたりの平均報酬。Spotifyが、日本でサービスを開始したのは、2016年秋だった

―― なぜ、このような開きが出るのでしょうか?

田中氏 残念ですが、プラットフォーム側が詳しい情報を公開していないので、われわれのような末端のレーベルからすると、ブラックボックス状態で、何も分かりません。分かっているのは、全収入を全再生回数で案分した単価をベースにして、各楽曲の再生回数に応じて分配している、ということだけです。

 ただ、Spotifyには無料ユーザーが存在します。これは私の推測ですが、無料ユーザーが聴いた楽曲の報酬は広告費の中から支払われ、その単価はかなり低いと思われます。その一方で、Apple Musicは、全て有料ユーザーです。Apple Musicの方が報酬が多くなるのは、そのためではないかと思われます。

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