ITmedia NEWS > STUDIO >

AppleとSpotifyのストリーミング報酬比較で浮かび上がる、音楽コンテンツビジネスの次の戦略(2/2 ページ)

» 2021年04月30日 11時24分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
前のページへ 1|2       

―― 表を見ると、両者ともに、年々単価が下がっています。

田中氏 確定的なことはいえません、ただ、音楽提供者としての皮膚感覚で思うのは、ユーザーの使用率が年々上昇しているのではないでしょうか。ユーザーが増えれば、総収入は増えますが、1ユーザー当たりの聴く楽曲数が増えれば当然、単価は下落します。サブスクの宿命です。また、大物アーティストが続々と参入したことも関係しているのかもしれません。好きなアーティストがカタログにリストされると、ユーザーの聴取回数は、おのずと増加します。

―― 他のサブスクプラットフォームの単価についても教えてください。

田中氏 主要プラットフォームの単価を表にまとめました。総じてSpotifyより高い単価がついています。レコチョクが突出しているのは、理由があります。有料ユーザー数が多い割に、利用率が低いからです。収入を案分して分配するわけですから、ストリーム数が少なければ、それだけ単価は上昇します。

 レコチョクは、dミュージック、dヒッツ、ひかりTVミュージックといったドコモ系のサブスクに楽曲を提供しています。携帯電話契約時の「レ点営業」が影響している可能性があります。店頭で販売員の言われるままに、契約したはいいが、全然聴いていないユーザーが多いのかもしれません(笑)

photo 図2:日本勢の1ストリームあたりの単価が総じて高い。レコチョクが突出しているのは、レ点営業の影響か?

―― レーベルとしては、レコチョク、LINE MUSIC、AWAあたりに楽曲を提供するともうかるのですか?

田中氏 ほとんどのレーベルは、プラットフォームを限定して楽曲提供を行うより、全方位で提供していると思います。パッケージメディアと異なり、販売チャンネルを増やしてもコストは変わりません。それに、弊社のように、クラシックを中心に提供しているレーベルは、グローバルマーケットを狙えるので、ユーザー絶対数の多い、SpotifyやApple Musicに提供する方が、トータルで高い売り上げが見込めます。

―― 地域により単価に差が出てくるのでしょうか?

田中氏 これも表を用意しました。Apple MusicとSpotifyの2020年第4四半期の地域別単価です。Apple Musicは、日本と欧州の単価が高い傾向にあります。一方、両者ともに、アジア、太平洋圏(日本を除く)の単価が低いですね。アジア圏では、日本の楽曲もたくさん聴かれるのですが、再生回数の割には、収益面で不利です。ストリーム単価は、現地通貨価値や聴取時間の多寡など、いろいろな要素が絡んでいるようです。最初に申し上げたように、その辺りの詳細は、ブラックボックスなので部外者には見えてきません。

photo 図3:地域別のストリーム単価。Apple Music、Spotifyともに欧州の単価が高い、一方、アジア、太平洋圏は、単価が低い

―― 小さなレーベルとして、サブスク時代に適合した事業戦略について教えてください

田中氏 SpotifyもApple Musicも、一部の例外を除いて、ワールドワイドで、権利処理を行った上で配信してくれます。弱小レーベルは、グローバルな権利処理のことを心配しないで楽曲を提供できるので、助かります。逆の見方をすれば、グローバルコンテンツで勝負しないと、生き残っていけないと思います。地域別の表を見ていただければ分かるように、欧州の単価が高いので、弊社では楽曲内容はもちろん、アルバムカバーのデザインやタイトルの付け方など、欧州を意識して作成するようにしています。



前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.