こうした批判を江崎さんは「健康診断で『この食生活を続けていたら糖尿病になりますよ』と言われて、結果そうならなかったからと言って医師を批判するくらいナンセンスなことだ」と指摘。「健康診断の結果を受けて、食生活を見直せば病気になることは避けられる。コロナの場合も感染者数の推移を見て、人々は出社や飲み会を控える動きがある。感染者数を抑制するこうした動きが起きることまでは、Googleモデルでも予測しきれていないのではないか」と話す。
データ分析の専門家である江崎さんは、Googleモデルの精度をどう見ているのだろうか。機械学習でパラメータを更新していくのは「ならではの新しいアプローチ」と評価しつつも、それによってモデルの精度が上がっているかどうかを現時点で判断するのは難しいという。「Googleモデルの予測結果は『あくまでこのまま何もしなかったらこうなる』という意味と捉え、危機感を持つための行動指標として使うべき」と話した。
その一方で、連日のコロナについての報道の中で散見された、“自称”専門家の数理モデルについては「危機感を抱いている」とも話す。「一口に数理モデルといっても、例えば応用数学の分野だったら『数学的に面白かったらいい』、物理学の分野だったら『本質的なメカニズムが捉えられれば現実の細かい状況を反映できていなくても構わない』といった基本的な考え方の違いがある。今回のような問題では、疫学・公衆衛生学の深い知識と経験がないと簡単に間違った結論が導かれてしまう」と指摘する。
「数理モデルは確立された方法で適切に使うと便利なものである反面、専門家でない人が扱うと精度の良い結果にならない場合もある」と江崎さん。コロナ禍について分析を試みた各種モデルやその結果を社会へどう提示するべきだったかについては「今後、さまざまな分野の研究者を交えて考えていく必要があるだろう」とした。
東京大学先端科学技術研究センター特任講師。株式会社infonerv取締役社長。
2011年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2015年、同大学院博士課程修了(特例適用により1年短縮)、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、国立情報学研究所特任研究員、JST さきがけ研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2020年より現職。
2021年4月に情報技術を社会実装する株式会社infonervを創業。東京大学総長賞、井上研究奨励賞など受賞。数理的な解析技術を武器に、統計物理学、脳科学、行動経済学、生化学、交通工学、物流科学など幅広い分野の問題に取り組んでいる。
著書に『データ分析のための数理モデル入門-本質をとらえた分析のために』(ソシム)、『分析者のためのデータ解釈学入門-本質をとらえる技術』(ソシム)がある。
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