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実現が近づく「給与デジタル払い」とは何か 得をするのは誰なのか(2/3 ページ)

» 2021年05月14日 08時00分 公開

資金移動業者は銀行レベルに信用できるのか

 銀行口座を活用した給与支払いについては、すでに多くの企業が安定した運用に成功している。給与デジタル払いについても、同じように一定の安定性が確保されることが望まれるだろう。そこで問題になるのが、資金移動業者を銀行と同じように信用できるのかという点だ。そもそも資金移動業者は何を目的に生まれた事業体で、銀行とはどう異なるのか。

 資金移動業者はもともと、2010年に施行された資金決済法において、銀行と消費者の間に立ち、送金や決済を円滑に行うことを目的として誕生した事業体だ。しかし「預け入れた資金の現金化と送金が可能」という特徴から、今では○○Payなどの名称で呼ばれるキャッシュレス決済系サービスの中核となっている。

 次の図は、厚労省が資金移動業者と銀行の違いを一部抜粋してまとめたものだ。銀行はいわゆる免許事業で、最低でも20億円の資本金と各種規制をクリアする必要がある。一方の資金移動業者は登録制であり、基本的には必要な供託金(利用者からの受取金に該当する金額)を預けていれば誰でも事業に参入できる。

photo 銀行と資金移動業者の違い(出典:厚生労働省)

 20年に施行された改正資金決済法には、資金移動業者と銀行の違いをさらに明確にする規定が盛り込まれている。資金移動業者が提供するサービスのアカウントの残高は「送金」や「決済」に使われることが前提と定められ、原則として滞留が認められなくなった。

 特に、100万円を超える残高については「送金と無関係の資金の滞留がないようにする」ことが定められており、資金移動業者は残高を滞留させることで利益を発生させるサービスを提供できないようになっている。

 改正資金決済法ではこの他、資金移動業者を(1)100万円以上の送金が可能な「第一種」、(2)19年までと同じ形態の「第二種」、(3)供託の条件が緩和される代わりに5万円以下の小口送金のみ可能な「第三種」──に分類している。「第一種」では送金を目的としない資金の滞留は認められないため、基本的に「給与デジタル払い」を担うのは第二種の事業体になるとみられる。

photo 改正資金決済法適用後の資金移動業者の分類(出典:厚生労働省)

 では、雇い主や労働者はこの第二種の資金移動業者を信用して良いのか。この点については、今後議論が交わされることになるだろう。しかし、デジタル給与が実現し、給与が〇〇Payのアカウントに支払われるようになれば、各アカウントの残高は大きく膨らむことになる。

photo 資金移動業者の利用状況と資金分布(出典:厚生労働省)

 アルバイトやパートタイムでも10万円前後、一般的なフルタイム労働者であれば数十万円の残高が毎月振り込まれるだろう。当然、不正引き出しを狙う悪質な第三者も増えるはずだ。各事業者は、セキュリティや資産保全の課題にこれまで以上に注力する必要が出てくるに違いない。

資金移動業者にとってはチャンス、ただし参入には障壁

 資金移動業者、雇い主となる企業、労働者など、多方に影響を及ぼすデジタル給与。実現の折には、これらの関係者はどのような影響を受けるのか。

 まず資金移動業者は、自社サービスのアカウントを実質的な「入金口座」としてユーザーに提供できる。決済にかかわるサービスにとって、最初にアカウントに入金させるというハードルは大きい。一方で、一度入金さえさせれば、派生する別サービスなどへの誘導がしやすくなり、新たな手数料収入の源泉になる。定期的に入金がある口座となればなおさらだ。

 ただし、デジタル給与払いが始まったからといって、既存の事業者が一斉に市場に参加する可能性は低い。なぜなら、資金移動業者の中には送金に特化した事業者もおり、決済に使えるサービスを提供しているのは一部だからだ。

 給与デジタル払いの提供に当たっては厚労省の認可を得る必要もある。そのため開始当初の段階では、多くても両手で数えられる程度の事業者が参加するにとどまるのではないだろうか。

photo 資金移動業者は金融庁の管轄だが、給与の支払いに関する規制は厚生労働省の管轄。「給与デジタル払い」の解禁に当たっては2つの省庁の連携が必要になる(出典:厚生労働省)

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