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米巨大オンライン掲示板「Reddit」で大騒動 運営の恣意的な投稿削除にユーザー反抗、一時は事実上の機能不全に(3/3 ページ)

» 2021年05月20日 20時00分 公開
[ウルセム幸子ITmedia]
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 サイト運営陣は取り急ぎ投稿した声明で「同氏の氏名がハラスメントやドキシング(中傷や攻撃を目的に、不正に入手した個人情報を公開すること)の可能性があるワードとしてシステムに認識され、投稿が自動的に削除されただけ」と主張。しかしこれを逆手に取り、「Aimee Challenor」(エイミー・シャレノール)を連呼する投稿が続出した。

 結果、全ての「Aimee Challenor」を含む投稿が自動ブロックされるわけではないことから、以前削除された投稿は運営が意図的に削除していたことが証明されると同時に「ストライサンド効果」(ある事実を隠蔽しようとしたために、かえって拡散してしまう現象)の見本のような展開を見せる事態となった。

当該スタッフの解雇、カテゴリーと管理者の復旧

 あくまで個人情報保護のための自動的な処理だったとする第一の声明が火に油を注ぐだけだった経過を受けて、同サイト運営チームはシャレノール氏を解雇し、3月24日(現地時間)に掲示板で最終的な声明を発表した。内容には、

  • 当該のスタッフ(シャレノール氏)はすでに解雇されたこと
  • 採用する前に、彼女の経歴を十分に精査しなかったこと
  • シャレノール氏が(トランスジェンダーであることにより)ドキシングとハラスメントを受けやすい存在であることから、サイトは彼女を過剰に保護し、これが深刻な結果をもたらしたこと
  • 個人の誹謗中傷を未然に防ぐために、ルールを改善したこと

 などが含まれた。

 そして運営チームは「議論と批判は、個人的な中傷でない限りRedditの大切なコンテンツであり、公人やReddit自体に対する批判を投稿したことによりアカウントが停止されることはありません」とした上で「Redditは、私たち運営チーム本位で運営されたことは一度もありません。これからもユーザーのために最善を尽くします」と宣言した。

表現の自由か、個人情報の保護か トランスへの偏見か、小児性愛に対する拒否感か

 サイトが全面的に不手際を認め、透明性を回復したことから収束したかのように見える今回の一件。しかしその背景には、表現の自由や知る権利と、個人情報保護のバランスの問題、LGBTQ+の人権問題など、今後もインターネット社会について考え続けなければいけないさまざまな要因が絡んでいる。

 炎上の最中にも、どこまでを個人情報と定義するか、どの時点で個人攻撃と見なされるのか、どこまでが公人なのか(シャレノール氏は以前は政治活動に携わる公人だったが、現在は一般人だったこともサイトが彼女を保護する要因となった)、情報の扱いを巡るさまざまな議論が活発に行われた。

 また、小児性愛者に対する生理的嫌悪の強い欧米社会では、その強い拒否感が問題になっている側面もある。

 小児性犯罪者に関する情報公開が法整備されており、科学的去勢や更生プログラムを終えていても地域に受け入れられず、社会復帰への道が困難になるケースが多いという。

 シャレノール氏の場合は特に、犯罪歴があったのは本人ではなく家族であったこと、サイトの運営チームの初動のまずさから騒動が大きくなってしまったことに対して、本人に同情の声も(わずかながら)上がっている。

 しかし、ただでさえ日々偏見と闘っているトランスジェンダー社会に、彼女の存在が複雑な感情をもたらしたことは確かなようだ。サイトの声明を受けて寄せられたコメントの中で、圧倒的に多くのupvote(高評価)を得ていたものを最後に紹介したい。

「スター」を多く獲得していたトランス女性のコメント(Redditより)

 「トランスジェンダーの女性である自分自身の立場として、トランスの人みんなが彼女のようではないと知ってほしいです。小児性犯罪者は絶対的に忌まわしく、いかなる場合でも保護されたり、援助されたりすべきではありません。

 トランスではない人たちは、全てのトランスがひどい行いをすると思いがちですが、私たちのほとんどは皆さんと同じ普通の人間です。たまたまこの人(シャレノール氏)がトランスであっただけです」

ライター

文:ウルセム幸子

編集:岡徳之(Livit)http://livit.media/

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