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Intelが生み出したさまざまなPC標準規格 Microsoftとの協力と対立“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(3/4 ページ)

» 2021年05月25日 15時10分 公開
[大原雄介ITmedia]

 かくしてIntelがNSPを発表すると、Microsoftは直ちに「WindowsでNSPはサポートしない」と表明するに至り、最終的にIntelはNSPの構想を撤回し、最終的に通常の命令拡張としてMMXを実装することになった。

 両社は他にもWindows NT 4.0のプラットフォーム対応やx86の64bit拡張対応などでしばしばぶつかっている。また、これらのProject全てで両社が協力し合ったわけでもない(例えばIndeoは当初こそVideo for Windowsの主要なCodecとして扱われたが、Microsoft自身はIndeoに協力はしておらず、単にCodecを利用する際のAPIを定めただけにすぎない)。

 いくつかのものはIntelが単独で進めたが、あまり成功したものはない。Home RFも尻切れトンボに終わったし、Broadband Initiativeもイマイチといった感が無くはない。それでも生き残ったものはある(例えばManageability InitiativeからvProが最終的に生み出された)し、この後にもいくつか発生したものがある。有名どころでいえばUEFIとかACPIなどだ。

 こうしたIALのさまざまな研究成果は、ここから急速にPCというものの形を変えていくことになる。ただそんな訳なので、ここからは複数の取り組みが同時多発的に発生している関係で、きれいな時系列順にはならないことをあらかじめお断りしておく。

 まず先月の続きのI/O Busの話。IALではPCI、USB、IEEE 1394という3種類のI/O Busのプロジェクトが同時に走っていた。ただこの3つ、お互いに明確にターゲットが異なっていた。

 PCIはISA、EISA、VL-Busの後継となる、PC内部の拡張カードなどに使われるI/O Bus規格であり、USBはキーボードやマウス、RS-232C、IEEE 1284(Centronics I/Fとも呼ばれていた)といった、比較的低速のPC外部の周辺機器の接続用。そしてIEEE 1394はSCSIの代替を狙ったもので、ストレージや高速な通信(例えばスキャナーなど)に利用されることをターゲットにしていた。この3つの規格に共通するのが、

  • PnP
  • Hot Plug/Unplug(マシンをいちいち電源オフにしなくても、動的に周辺機器の追加や削除を可能にすること)のサポート
  • Architecture Agnostic(特定のアーキテクチャに依存しない)

の3点である。

 PnPは前回説明した通りで、ユーザーがロードすべきドライバを設定しなくても、自動的にハードウェアを認識し、それに合わせてドライバをロードしてくれる仕組みのことだ。このPnPの搭載により、“Inbox Driver”(OSをロードした時に、標準で搭載されているドライバ。これを利用することで、OSのインストール後にすぐマシンを使うことができる)という概念が生まれた。もちろんOSをインストールした「後で」出てきた製品の中には、Inbox Driverでは対応できない場合もあるので、その場合は後追いでドライバの追加が必要になるのだが。

 次のHot Plug/Unplug、「USBやIEEE 1394はともかくPCIは?」と思う人もおられようが、実はPCIもHot Plug/Unplugを「PCIの規格上は」サポートしている。どんな用途かというと、実は高信頼性サーバ向けである。

 金融機関で利用されるサーバなどでは、稼働率を99.999……%とかまで高めることが期待されている。そこで内部構造を多重化し、あるモジュールが故障したら冗長モジュールに作業を切り替えて継続するといった形で、止まらないようにするわけだ。

 ただその場合、壊れたモジュールをそのまま放置するといずれ冗長モジュールが壊れたら止まってしまう。そこで「壊れた」というレポートを出して、サポートエンジニアがそのモジュールを新品に交換する。

 この際にいちいちシステムを落としていたら意味がないので、電源オンのままでモジュールを交換できるようになっている必要があり、これをPCIでもサポートしているというわけだ。

 もっともこれを実現するためには、PCIのコントローラーやOSなどもこのHot Plug/Unplugに対応している必要があり、そこまでのニーズが無い普通のPC向けではこれはサポートされていない(一部サーバ用マザーボードの中には、これに対応したチップセットを搭載していたものもあるが)。

 OSも同様で、Windows 9xとかWindows NT Workstationなどは当然これに未対応である。まあこうした金融機関向けサーバをWindows NT Workstationとかで構築することはあり得ないので、別に支障はないのだが。

 最後のArchitecture Agnostic。Intelは別にOSのベンダーではない訳で、Windows以外のOSでも広く利用されることを希望しており、また逆に言えばx86にロックインした規格(ISA、EISA、VL-Busはまさにx86をベースにした規格だった)であると広範に普及しないことになる。

 そこで、特定のCPUアーキテクチャに依存しない構造を取ることにした。この目的のため、IALはPCI/USBに関しては、初期の基本的なアーキテクチャのメドが立った段階で業界標準団体を立ち上げ、ここに仕様の策定を含む作業を移管した。

 PCIの場合はPCI-SIG(Peripheral Component Interconnect Special Interest Group)、USBはUSB-IF(USB Implementers Forum)がそれぞれ立ち上がっている。

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