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コロナ禍「日本のIT敗戦」の深層を考える(2/3 ページ)

» 2021年05月26日 10時14分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

課題は「現場での運用」が軽視されていたことにある

 Bluetoothを使った接触確認アプリは世界中で導入されているが、目覚ましい成果をあげられていない。

photo AppleとGoogleの共同開発による接触確認フレームワークは多くの国・地域で採用された

 プライバシー保護を最優先にした上でBluetoothを使う、という方法論の抱えていた点に問題があった可能性はある。だが、どうも他国の中にも、「運用」が課題でうまくいかなかった例があるようだ。

 筆者が読んだ範囲では、イタリアも「保健所との連携」が課題で実力を発揮できなかった、という指摘がある。

 規格が定めているのはスマートフォンでの通信の仕組みとサーバ連携であり、システム全体の運用設計は各国がそれぞれ行う。日本も不具合の問題はあったものの、それ以前の話として「現場との連携」を中心とした運用が問題だったのではないか……。そう考えている。

 なぜ運用がうまくいかなかったのか?

 さらに話を戻せば、結局は「目的設定の失敗」と思える。

 当時のことを思い出していただきたい。

 政権側は「早期に運用を」「広く国民に」と喧(けん)伝していた。だが前述のように、アプリの導入はさまざまな事情から制約をかけた形で進められた。4月頃に存在していた計画とはずいぶん変わっている。

 HER-SYSとの連携など、計画自体に妥当性はあったと思っているが、そうした計画を運用するための視点と、「とにかく早期導入を」という政治的な圧力との間で、バランスが崩れたのではないか、と思えるのだ。

 感染症の蔓(まん)延対策を実際に行っているのは「現場」だ。多大な責任と過大な仕事量に翻弄される彼らを助けることこそ、対策の本筋だったはずである。だが、新しい施策は増えるものの、現場の負担を軽くする視点はどのくらいあっただろうか。

 COCOAのようなシステムは、システムだけがあっても価値を発揮できない。現場が楽になり、さらに蔓延対策を良質なものにするためにしっかりと「運用目的とそれを実現するための方法論」を定めておく必要がある。

 現場に歓迎してもらえるシステムを導入することが肝要であり、それが難しいなら時期や方法論は考え直してもいい。「アピールのための早期導入」は、本来プライオリティーが高くないはずなのである。

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