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コロナ禍「日本のIT敗戦」の深層を考える(3/3 ページ)

» 2021年05月26日 10時14分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「接種予約」にも欠けている「現場のためのシステム」という発想

 ワクチン大規模接種東京センターの予約システムの問題も、課題は同じではないかと考えている。

photo ワクチン大規模接種東京センターの予約サイト

 システムは非常に簡素なもので、簡素すぎて課題が大きいことが指摘されている。あのシステムの課題は「接種の現場での確認作業に負担をかける可能性が高い」ことに尽きる。

 日本のワクチン接種については、ワクチンの確保以上に「接種を担当する人々の確保」など、ワークフローの問題が大きい。接種希望者を無秩序に受け入れることができないため、なんらかの順序をつける必要があるための「予約システム」である、といっていい。

 だとするならば、予約作業がシンプルで現場が混乱しないことを大前提にしたシステムが求められる。市町村の予約との重複についても、それがチェックできないことが問題なのではなく、「仮に重複し片方が余ったとしてもその時に無駄にしない運用」の方が重要だ。

 システムが簡素なことが問題なのではなく、簡素になった結果チェックが大変になることが問題であり、極論すれば「システムでチェックするのでなく、接種者が持ってきた紙の予約表でチェックする」形だっていいのだ。

 急いで運用を開始することや大規模であることにプライオリティーを置くのではなく、現場にとって「ベストを目指すが、せめてベターである」ことが重要だ。

 政府として問題が小さいと思うのであれば、それはそれでいい。システム改修や対策も「現場にとってどうあることが良いのか」というメッセージが欲しい。だが、報道を見る限り、その印象は薄い。

 報道による指摘についても議論が巻き起こっているが、筆者としては「指摘そのものは必要だった」と考えている。

 一方で、システムの課題を指摘することは目的ではなく、システムの課題によって生じる現場の混乱を防ぐ方法を指摘することが優先になるべきである。筆者も例外ではないが、報道は時に、目の前の課題と本質的な課題を取り違える時がある。記事にはその視点が欲しかった。

 「システムはシステムを使う人のためにある」というのは大原則だ。だが、その原則は時に、いろいろな条件で崩れる。ITシステムにとっては普遍的な課題といえる。日本のITシステムはこの普遍的な課題を解決するのが苦手だ。政府調達も例外ではない。

 システム導入を決める政治家や行政トップが「システム運用を使う人前提で行う」原則を守る意識を徹底してくれれば、状況は改善できる部分もあるはずだ。

 さまざまな条件が重なることはよく分かるのだが、その条件を緩和したり変えたりするのもまた、彼らの仕事だ。

 ITリテラシーとは、そうした発想を重視できるということであり、技術を知っている、ということではないと思っている。もちろん、技術を知っていれば、運用前提での発想はしやすいと思うが。

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