コロナ向け予防接種の予約システムで、「ネットのシステムが混雑で落ちた」という話が問題視された。話題の製品が出るたびに「ネットショップが落ちる」という話も出る。
事情を知っている人からすれば「まあ、落ちるよね」とは思うのだが、ネット予約がなぜ落ちるのか、いまひとつピンときていない人も多いのではないかと思う。
そこで改めて、一つの基礎知識として「ネット予約はなぜ混雑に弱いのか」という解説をしてみたい。理由を知れば、その対策も見えてくるはずだ。
この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年5月17日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。
ネット予約が落ちる理由はなにか?
まあ、簡単な話で、「人がたくさん集まるから」だ。
ただ、人がたくさん集まる、といっても「そんな大変なの?」と思う人もいそうだ。
もはや、われわれはネット抜きに生活できない。Webサイトやメッセージングサービスには、毎日大量の人が利用している。巨大なWebメディアや映像配信にはたくさんの人が大量のデータを利用しているのに、通常の状態では落ちない。たとえばYouTubeは、世界中で毎日20億人が再生している。これはアカウント登録者からの推定であり、実際にはもっといる可能性もある。
なのに、通販や予約になるとWebサービスはストンストンと落ちる。巨大なECサイトであっても程度問題であり、時にはアクセスが困難になる。
なぜなのだろうか?
サーバは混雑に弱い。これは同じ時間の中でどれだけ同時に処理できるか、という話だと考えていただければいい。
リアルとネットで、同じ「朝9時から売り出し」があったとしよう。
リアルなら、店の前に行列ができて開店を待つことになる。場合によっては行列にならずに無秩序に店の前に人だかりができて、「物売ってるレベルじゃない」感じになることもあるが、まあ、それは例外。やろうと思えば「前から行列を作って時間を待つ」という対応ができる、という点を覚えておいてほしい。
リアル店舗での「混雑」は、販売対応自体の速度以上に、店に入れるかどうかという「面積」の問題が大きい。待機行列を作る場合も同様に、店の外にどれだけ行列を作れる場所があるか、という点が問題になる。
一方ネットはどうか? 「面積」の問題はない。だが、一度に処理できる量には限界がある。
9時になって皆が一斉に「のりこめー」とアクセスすると、非常に短い時間の間に、サーバへと大量のアクセスが集中することになる。1万人がアクセスすると想定しても、「1時間の間に1万人がアクセスする」のと、「1分の間に1万人がアクセスする」のとでは、サーバにも回線にもかかる負荷は数十倍違う。
これは序の口で、人気商品などならば、さらにこの数十倍のアクセスがあっても不思議はない。
リアル店舗とは違ってネットに行列はない。「9時から」という条件は誰にとっても同じなので、当然、売り出し開始の時間に圧倒的なアクセスが集中するわけだ。アクセス集中で表示されないと皆ページをリロードするなどして何とかアクセスしようと試みるわけで、さらにアクセス集中は続く……ということになる。
現実の例で言えば、人々がパニックになって狭い入り口に殺到するような状況が毎回起きている、と思えばいいだろうか。
ちなみに、ネットだけでなく「電話」も同じ課題を抱えている。一度に同じ番号に通話が集中すれば、つながりづらくなる。それだけでなく、影響が電話システム全体に広がると、今度は予約以外に悪影響がでる。今回のワクチン予約で、電話での通話に制限がかけられた理由は、「電話システム全体の健全性を維持する」ための緊急回避であり、必要なことだ。
一部に制限をかけたことを非難する声もあるが、それはお門違いだと考える。ライフラインである「電話」を落とさないことの方が重要だ。
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