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パナソニックのカメラ撤退はあり得るか小寺信良のIT大作戦(2/4 ページ)

» 2021年05月27日 09時19分 公開
[小寺信良ITmedia]

「動画ミラーレス」への道のり

 一方マイクロフォーサーズの弱点は、センサーサイズだ。4/3インチというサイズは、フルサイズに比べると、面積で約1/4しかない。2008年の段階では、まだ一眼カメラのAF機能は十分ではなく、ピントが外れることが問題だった。その点、面積の小さいマイクロフォーサーズは被写界深度が深く、ピンぼけが起こりにくい。そのため当時は、センサーサイズが小さいことにメリットがあった。

 しかし同じく2008年、キヤノンが「EOS 5D Mark II」をリリースし、フルサイズ機で動画を撮るというブームが起こると、フルサイズ機の特徴である大きな「ボケ」が注目されていった。

 海外でもそのまま「Bokeh」で通用するようになっていったのは、フルサイズで動画を撮るデジタルシネマ的手法が本格化していったこのあとからだ。そうなると、ボケが少ないマイクロフォーサーズは、デジタルシネマ文脈からははじき出される。

 フランジバックが短い×フルサイズの利点にいち早く気付いたのは、ソニーだった。2010年に発表されたミラーレスNEX-3およびNEX-5には、フランジバックが短いEマウントが新搭載された。APS-Cサイズセンサーにしては、マウント径が不自然に大きい。これでは将来、カメラの小型化に邪魔になるだろうと、多くの者がいぶかしんだ。

 だが2年後に、Eマウントの中にフルサイズセンサーを入れ込んだカムコーダ「NEX-VG900」が登場し、皆が「そういうことだったのか!」と膝を打った。もともとミラーレスの構造は、業務用カムコーダの構造そのものである。「フルサイズ動画ブーム+ミラーレス=フルサイズカムコーダ」という方程式は、ソニーにしか解けなかった。

 しかし世の中は既に「ビデオカメラ」に興味をなくしつつあり、写真も動画も1台で済ませたいという流れになっていた。ソニーもその後方向転換し、ミラーレスの「α7S」で動画機能を強化する流れへと変わっていった。

 一方LUMIXは、マイクロフォーサーズのままで動画機能を強化するという方向性を打ち出した。2009年にはフルHD動画が撮れる「DMC-GH1」をリリースしていたが、今に続く本格的な動画撮影機としてのGHシリーズを決定づけたのは、2012年発売の「DMC-GH3」からということで異論はないだろう。

photo 本格的動画撮影機の流れを作った「GH3」

 前モデルGH2との違いは、Blu-ray互換であったAVCHDに見切りをつけ、さらに高ビットレートで撮影できるモードを搭載したことである。さらにプロ機にしか搭載してこなかったAll Intraフレームでの記録もサポートした。

 続く2014年の「GH4」は早くも4K動画撮影に対応した。この頃からプロカメラ部門がコンシューマーに合流したこともあり、拡張ユニット「AG-YAGHG」を接続するとHD-SDI 4本による4K出力やXLR入力、タイムコード入力にも対応するなど、プロ用のニーズにも応えられるようになった。ただ、実際にプロの現場で利用されたという例は多くなかったようで、続く「GH5」にはこうしたオプションは出なかった。

 プロ機に目を向けると、パナソニックの放送用カメラは、DVCPRO時代には廉価で高性能ということで、ケーブルテレビやCS放送などで導入されたが、なかなか地上波にまでは浸透しなかった。そんな中で方向転換を試みたのが、「VARICAM」シリーズである。

 今ではCINEMA VARIVCAMとしてシネマカメラシリーズを展開しているが、2002年発売の初代「AJ-HDC27F」は、DVCPROのテープに720pでバリアブルフレームレート撮影できるという、変則的なカメラだった。

 シネマ向けとして導入されたが、レンズシステムや本体の仕様が放送用カメラそのもので、ドキュメンタリーにはマッチするが、映画用途としてはスロー撮影のために一部で使用される程度であった。同時期ソニーが「CineAlta」シリーズを展開してジョージ・ルーカスと組み、スター・ウォーズエピソード2/3を撮影して華々しいデビューを飾ったのとは、対照的であった。

 ライカのライセンスを受けて製造するマイクロフォーサーズ用レンズは優秀だが、イメージサークルが小さいため、「ボケ」を有難がるシネマ文脈からの評価は低かった。コンパクトシネマカメラとして注目を集めた2017年の「EVA1」は、スーパー35mmイメージセンサーを搭載したが、マウントはEFマウントである。自社にシネマで使えるレンズがなく、シネマカメラとしては自社だけで成立できない苦しさを浮き彫りにした。

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