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「次のWindows」も発表間近な今、各社OS戦略を考える Google I/O、WWDCから(3/3 ページ)

» 2021年06月18日 10時42分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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タブレットとPCは「統合しない」前提になりつつある

 タブレットとPC(Mac)に関する考え方も、今のOS戦略を反映している。

 自由度が高く、いろいろな作業をする上での万能性が高いのは、PC/Macである。それはずっと変化がない。スマートフォンは身近だが、サイズ的にPCの代わりをするのは難しい。一方で、iPadやChromebookもパフォーマンスは上がる一方、PCやMacと同一の存在にはならない。それを「中途半端だ」と思う人もいるだろう。

 その隔靴掻痒(かっかそうよう)感は分かる。

 だが、一方でこうも感じる。

 「PCを持ち出すまでもないことをサクサクやるデバイスも求められており、それもまた“パーソナルコンピュータ”ではないか」と。

 PC/Macはクラムシェルであったり、デスクトップであったりする形に特化している。そこでじっくりと腰を据えて使うためのデバイスだ。

 一方、日常的にネットを使いたいときには、もっとカジュアルな場面が多い。そうした場面ではスマートフォンが活躍するわけだが、画面サイズやタイプのしやすさなどで、より大きなデバイスが欲しいときがある。

 そもそもタブレットとはそういう場面のために生まれたもので、それはそれでいいのだと思う。一方、タブレットをみて「これがPCであれば」と思うのは、結局費用対効果の問題に帰結する部分が多い。低価格なタブレットが求められるのはそのためだ。

 なお、iPad Proのようなハイエンドデバイスはとても特殊な存在である。Appleの中ですら、数量は低価格なデバイスの方が圧倒的に多く、「Pro」がメジャーなわけではない。そう考えると、ハイエンドデバイスの一番高いモデルだけをピックアップしてタブレット全体を語るのは、正しい認識とはいえない、と筆者は考えている。

 一方で、デバイスの使い方はさらに変わっているように思う。

 イラストレーターがサクサクと発想を絵にしていったり、ライターが思い付いたことをサクサクと書き、調べ物をしていったりする作業は、一般論でいえば「プロ用途」だ。だが、そこでPCがいいのか、というとそうでもない。「自分にとっての専用機」的に、PCよりも素早く、どこでも使える機器の方が便利なこともある。

 方向性は違うが、教育などもそうかもしれない。一定年齢になり、本格的なソフト開発をするならPC/Macであることが求められる。だがそうでない場合には、「ネットの力」は求められるが、PCの自由度が必須なわけではない。だからChromebookは教育にフィットしているのだろう。

 iPadやChromebookはスマートフォンとPCの間にある。それは昔から変わらないが、人々のデバイスの使い方が変化したことよって、「PCとスマートフォンの間」は意外と広くなっているのではないだろうか。

 そう考えると、これらの中間デバイスは「パーソナルコンピュータであってもPCではない」という存在になる。

 そこで課題だったのは、サービスやデータ連携だ。だが、そこはずいぶんと楽になった。もはやこれらのデバイスでは普通にファイルを扱えるし、使えるサービスの差も小さくなっている。GoogleやAppleがiPadやChromebookで「他デバイス連携」を強化するのは、そうすることで「PCでないパーソナルコンピュータ」の意味を強化できるからだ。

 WWDC21で発表されたmacOS Montereyでは、iPadを「iPadとして動かしたまま」Macと連携する「ユニバーサルコントロール」という機能が搭載された。簡単にいえば、MacなりiPadなりのキーボードやタッチパッドを、「連携している3つまでのデバイス」で共有できるもの。マウスカーソルをMacの隣にあるiPadへ動かすと、Macのキーボードやマウスが「iPadのもの」として動くようになるわけだ。それぞれで編集しているファイルも、隣の画面へとドラッグ&ドロップで移動できる。

photo AppleがmacOS Montereyで導入するユニバーサルコントロールを使うと、MacとiPadの連携がよりスムーズなものになる

 「iPadでmacOSが動くなら、1台で済むんだからこんなことはいらないのでは」

 そう思われそうだ。

 確かにそうなのだが、これはそういう方向性ではなく、「iPadはiPadとして、独立して使ったままMacと連携する」機能なのだ。これは前述のように、「気軽にある処理をするデバイス」としてiPadを使っている人が、Macとシームレスに連携するために必要なものである。

 1つのOSでも、1つのUIでもニーズが満たせないことははっきりしてきた。それがうまくいくなら、タブレットとPCの完全統合を目指したWindows 8の流れはもっと成功しただろうし、クラムシェルPCにおいて2-in-1はもっとメジャーになっていた。Chromebookでも、2-in-1はオプション的な扱いだし、iPadにとってもキーボードは「あればいいが必須ではない」存在だ。

 ニーズが違えばOSもUIも、さらにはプロセッサも変わるのはもはや1つの流れかと思う。だが、データやサービスが連携できないのは困る。

 これが現在の、一つの結論ではないか。それをカバーするように進化しているのが各社のOSの流れであり、サービスの流れではないかと考えている。

 そう考えると気になるのは「Windowsがどうなるか」だ。

 再び「1つのOSで何でも」になるとは考えづらい。低コストなハードウェアでの動作状況を改善する必要はあると思うが、「万能性」こそがWindows PCの価値であり、その価値をより高めて、快適に進化する方向に伸びるのではないか……。その予想が正しいかどうかは、6月25日には判明する。

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