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AppleのDolby Atmos空間オーディオをビートルズ「Abbey Road」で体験 空間オーディオの制作も試してみる(2/4 ページ)

» 2021年06月29日 12時29分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

これまでも楽器の定位には違和感を覚えていた

 まず、2009 Remaster版を聴いてみよう。この音源は、通常のステレオ再生にのみ対応している。60年代に登場し普及し始めたマルチトラックレコーダーが使われており、銘器の誉れ高い「EMI TG12345」コンソールと8トラックのレコーダーで収録されている。ただ、当時の音源にありがちな、各パートが右、左、中央に、明確に分離する極端な定位でミックスされている。

 従って、イヤフォンで聴くと、例えば、「ヒア・カムズ・ザ・サン」などは、最左翼から最右翼にかけて、ギター→ベース→ドラムス→ボーカル→コーラスが、左耳から右耳に向けて描いた頭の中央線を貫く形で定位しており、あまり気持ちのよい聴取体験ではない。まあ、昔から聴き慣れているから、それが当たり前といえば、当たり前なのだが、後述するAbbey Road (2019 Mix) のリミックス版が秀逸であるがゆえに、どこか違和感を覚えてしまう。

 次にAbbey Road (2019 Mix)を、通常のステレオ音声で聴いてみる。各パートの定位が頭の中央線を貫く形に大きな違いはないが、左右に振り切った極端な定位感が和らぎ、全体がバランスよく自然な形に修正されている。それもそのはず、この音源は、マルチトラックテープから、再度トラックダウン作業を実施して制作されたと聞く。オリジナルの雰囲気を壊すことなく、少しだけ今風にミックスした感じが心地よい。

photo 「ドルビーアトモス」の設定を「自動」にしておくと、対応する音源で空間オーディオを楽しむことができる。通常のステレオ再生にしたければ、ここで「オフ」を選択。ステレオ再生時と空間オーディオの音量差が気になる場合は「音量を自動調整」をオンにしよう

小部屋のアンビエント処理を施したような印象

 一方、空間オーディオをオンにしてAbbey Road (2019 Mix) を聴いてみると、音像に立体感が出て音のかたまりが、頭の中央線を離れ、全体的に少し前に移動したような印象だ。

 ただ、ステレオ音声に比較して、音圧が下がったように聴こえる。それは仕方ないのだろう。ステレオ音声の場合、頭の中央にべったり張り付いたように再生されていたものが、Dolby Atmosにより、小部屋のアンビエント処理(空間エフェクト)を施したような印象になり、音源との距離ができた形になるのだから。実際、それまで乾いた音色の迫力系のドラムスの音が、心持ち遠くなったように感じる。

 そもそも、ステレオ再生時と空間オーディオ再生時では、音量が違いすぎる。試しに、「Music」アプリの設定から「音量を自動調整」をオンにして聴き比べてみると、音量差は少なくなるものの、空間オーディオの音圧が低く感じるのは変わらなかった。前述のように、アンビエント感が出る分、音圧が下がったように知覚するのかもしれない。

 これは余談だが、「音量を自動調整」オンにすると、Appleの各種端末における「Music」アプリでは、ラウドネス値「−16.9LUFS」に調整されるようだ。ただ、これは筆者の独自の計測値でありAppleが正式に公表したものではない。

 さて、ビートルズを3つのパターンで聴き比べたわけだが、筆者自身は、空間オーディオよりも、Abbey Road (2019 Mix)をステレオ再生した場合の音像がもっとも自分の感性に合っている。ビートルズのアルバムに限らず、Apple Musicで公開されている他のビンテージロック系のアルバムを聴いても、空間オーディオで聴くと、違和感を覚えてしまうのだ。

 空間オーディオの本領を発揮するためには、楽曲の録音時から、空間オーディオ向けのコンテンツとして、マイクのアレンジや楽器の立体的定位を考慮して作成されるべきなのではないだろうか。そんな気がしてきた。では、次に、空間オーディオの制作環境について紹介しよう。

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