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» 2021年07月15日 15時29分 公開

「映像作品から収益を得る」とはどういうことなのか 鬼滅、シン・エヴァ、ハサウェイに見るテクノロジーの破壊的変化(1/2 ページ)

このところ、アニメ映画のヒットが続いているが、ビジネスとテクノロジーの変化がある。この問題を西田宗千佳さんが分析する。

[西田宗千佳,ITmedia]

 映画というビジネスには「興行収入」、通称・興収がつきものだ。2020年の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が記録的な興収を達成し、今また、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の興収100億円達成が話題になっている。

 一方で、今や映画というビジネスは多角化しており、興収だけで語るのが難しくなっている。コロナ禍で配信への切り替えや劇場公開との同時配信などを採用する例も増えている。

 そこで改めて、「映画というビジネス」について考えてみたい。これはテクノロジーがビジネスに与える破壊的な変化の一例であり、他にも通じる発想だと考えているからだ。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年7月12日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

デジタル上映が映画ビジネスを変えた

 映画館で映画を見せる、というビジネスは、「劇場」という言葉からも分かるように、演劇から派生したものである。演劇と違っていたのは、同じ演者による同じ演目を「フィルムを通じてコピーして伝える」ことができた点だ。多数の劇場で同時に見せることも、同じ劇場で1日に何度も見せることもできたのは、記録媒体を介して映像を見せる、という特性があるおかげだ。

 現在はそれがデジタルになり自由度は劇的に増したが、本質は変わっていない。劇場という「みんなで一緒に作品を楽しむ良い環境を提供する」のがビジネスの本質であり、それをいかにたくさん積み重ねるかが映画館と配給会社の収益を決める。まあ、映画館の場合には物販と飲食の比率も圧倒的に大きいのだが。特に飲食の収益は重要で、コロナ禍における映画館の苦境の要因の一つだ。

 一方、「媒体に記録されたエンターテインメント」としての映像は、テレビとホームビデオの登場で大きく位置付けが変わる。フィルムを使う限り家庭それぞれに映像を渡すのはコスト的に不可能だったが、放送とホームビデオの登場で、それが可能になったからだ。

 映画は映画館で掛かる「フロー」的なものだったのだが、テレビ放送したり、ホームビデオとして販売・レンタルしたりするという用途が生まれ、「ストック」になった。映画への投資はここからさらに拡大する。作った作品は資産として、長く収益を生むものに変わっていったからだ。もっと良い画質・音質を求めてテクノロジーが進化し、媒体がビデオテープからディスクに変わっても、ビジネス構造自体は変わらない。

「デジタル配信」で劇場も家庭も変わった

 だがテクノロジーの進化の中、映画を伝えるものが「デジタルデータそのもの」になり、ネットワークを介して提供されるようになっていくと、ビジネス構造に本質的な変化が現れるようになる。

 それはまず劇場で起こり、次に家庭で起きる。

 映画館は複数のスクリーンを持つ「シネマコンプレックス」になった。上映はプロジェクターを使ったものになり、映画はフィルムで劇場に供給されるのではなく、ネットワークを介して劇場のサーバへと提供されるようになった。

 その昔、上映スケジュールはそうそう変えられるものではなかった。フィルムの本数や上映エンジニアの数には限りはあり、切り替えには時間もコストも掛かったからだ。

 だが、デジタル上映+シネコンが基本になると話は変わる。複数のスクリーンと上映時間の組み合わせは管理システム上の設定にすぎないからだ。すぐに切り替えができるので、作品のヒット状況や客層に合わせ、柔軟な構成がしやすくなった。客席の埋まり具合も簡単に把握できるようになり、オンラインでの予約も実現した。今や、「劇場に入れるのを行列して待つ」ことはないし、それを観客の側も許容しない。

 デジタル上映なので上映するコンテンツの柔軟性も上がる。「映画」として作られたものである必然性はない。テレビで見ることを前提とした作品でも、劇場中継でもいい。どこかからの生中継を流してもいい。観客が入り、楽しんでもらえるなら何でもいいのだ。

 個人宅向けの映像も、放送やテープ・ディスクによる供給から、ネット配信に変わった。

 かつて、映画館が最上位であり、物理メディア・放送へという上映の順列は明確だった。

 だがネット配信の時代になり、コンテンツ制作のための原資が映像配信事業者から出てくるようになるとまた話は変わってくる。サブスクリプション形式による映像配信にとって、作品はサービスに顧客を集めるための資産であり、そこへの投資は当然のものとなったからだ。

 NetflixやAmazonの制作出資作品がアカデミー賞を獲得するのも珍しいことではなくなった。逆に映画会社は独自の映像配信事業を立ち上げ、コンテンツ資産を活用する戦略を取るようになった。コロナ禍で劇場上映から映像配信へと切り替える例が増えたのも、こうした背景に基づく。

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