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「映像作品から収益を得る」とはどういうことなのか 鬼滅、シン・エヴァ、ハサウェイに見るテクノロジーの破壊的変化(2/2 ページ)

» 2021年07月15日 15時29分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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最近のヒットアニメを基に「ビジネスの多様化」を考える

 これらの変化を前提として考えると、映画館で映画を鑑賞した人からの収入=興収は映像ビジネスの収益全体において、一つの側面にすぎないことが見えてくる。アニメという同じように見えるジャンルでも、ビジネスの形はまちまちだ。

 『鬼滅の刃』の歴史的ヒットは、上映形態の柔軟性とコロナ禍の特殊性が生んだものといっていい。他の作品が劇場にかけづらいタイミングであり、そこにヒットが見込める作品が用意できたため、劇場がとにかくたくさんのスクリーンで上映した結果ヒットを生んで、それがさらに話題となって人々を引き込んだ。

 『シン・エヴァンゲリオン』もこれを追いかけるような構造を持っている。エヴァンゲリオンは多くのファンを持つ作品だが、関連作品数そのものは多くない。一方で、長い歴史の中で「ファンを増やす」ことについてはかなり積極的だ。グッズ展開や他業種コラボレーションは多い。特にパチンコでの展開は、アニメにそこまで興味がない層の大人に作品を浸透させることに一役買っているし、そこからの収益も大きい。興行収入がニュースになるのも、分かりやすい数字であり、新しいファンを引き付けた証拠となるからだ。

photo Amazon Prime Videoではシン・エヴァンゲリオンの冒頭部分が公開されている

 一方、現在は短期間しか上映されない作品も増えている。別に「ヒットしなかったから」ではなく、最初からそういう計画の場合も多い。ファンに向けた作品をコンパクトに回し、その後のディスク販売や配信視聴、グッズ購入などにつなげることを想定したものといえる。

 劇場公開+グッズ販売というモデルを大規模かつ徹底的に活用していたのが、ここ10年のガンダムビジネスだ。ディスク販売を主軸に作品を作るが、まずそれを劇場で一定期間流し、さらにそこでディスクやグッズの販売も行う。そうすることで劇場も出資元であるバンダイも収益を最大化する。劇場に足を運べない人に向けて同時に映像配信も行う。

 シネコン+メディア販売+映像配信、という構造がなければ、こうしたビジネスは成立しない。当然、その先にはプラモデルやフィギュア、ゲームといったビジネスがある。長く厚いファン層を持つシリーズだからこそのやり方だ。

 ただ、現在上映中の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』はビジネスモデルを少し変えている。ネット配信は同時に行わず、劇場とディスク販売を主軸にしている。

photo 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の劇場限定版Blu-ray

 一方で、『閃光のハサウェイ』は、海外では既に、Netflixと提携して配信が行われている。人気が高く質の高いアニメコンテンツを求めるNetflixと、海外での展開を求めるバンダイとの思惑が合致した結果だろう。前述の『シン・エヴァンゲリオン』にしても、海外ではAmazon Prime Video限定で配信が行われている。考え方は『閃光のハサウェイ』と同じだ。

 言うまでもないが、これが実写作品になるとまた変わる。ファンの形が違うので、上映の形や求められるグッズが変わるのは当然だ。海外のどこでウケるかも変わるため、配信収入の在り方も変化する。

 テクノロジーとデリバリーの形が変わることで、これだけビジネスは複雑化する。他のビジネスであっても、デジタル化によって同じように前提条件が変化する可能性は十分にある。ではそこで何がまず重要なのか。それが、ビジネス全体を考えるプロデュースサイドの難しさといえるだろう。

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