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経営者・平井一夫氏はソニーをどう復活させたのか 15年追ってきた記者が『ソニー再生』を読む(1/3 ページ)

» 2021年07月27日 09時25分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 元ソニー会長の平井一夫氏が、『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」』(日本経済新聞出版)を出版した。自身がソニーで行った改革についてまとめた本だ。

photo ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」

 筆者(西田)は都合十数年にわたり、平井氏に取材で何度も相対してきた。そんな関係もあってか、「あの本、どうでした?」と何度かたずねられている。そこで、筆者の目から見た平井氏の姿と本に書かれていた内容について、少し考えを述べてみたい。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年7月19日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

 なお、平井氏に関しては、彼が社長退任を発表した2018年2月に記事を書いている。今回の書評(?)も、その内容と関連性がある。お時間があればそちらもお読みいただければ幸いだ。

「経営者」とはどんな人々か

 企業の経営者にはいろいろなタイプがいる。一番分かりやすいのはスティーブ・ジョブズのような人だろう。経営者自身が他を圧倒するビジョンを持っていて、ブルドーザーのように周囲を押し流しながら目標に突き進み、最終的に結果へと結び付ける。“ハイパーディレクター”タイプの経営者、とでもいえばいいだろうか。

 このタイプは創業者やクリエイターからの転身者に多い。そして、主にB2Cプロダクトを主軸とする製品での成功例が目立つ。ある意味で一つの理想型といっていい。

 ソニーでいえば、創業者である井深大・盛田昭夫はそうした人々だったのだろう。あまり目立たないが、第4代社長の岩間和夫氏も、トランジスタの活用による「小型化とテクノロジーのソニー」というイメージを作ったという意味では、このタイプかと思う。

 近年のソニー関係者であり、筆者も取材した人々の中で圧倒的にこのタイプなのが、久夛良木健氏である。彼の発想力と美学がなければ、PlayStation(プレイステーション)は生まれていなかった。

 一方で、ハイパーディレクター型の経営者が常に成功し続けるとは限らない。スティーブ・ジョブズは偉大な人だが、たくさん失敗もしている。一度Appleを追われたのもそのためだ。

 久夛良木氏も、圧倒的に才気煥発(かんぱつ)であるがゆえに敵もいたし、PlayStation 3とそれに伴うCell構想が、歩調の乱れにより想定通りの成功を収められなかった結果、ソニーを去ることになった。筆者は今も、彼がソニーのトップになれていたらどうだっただろう……と思うことはある。

 ハイパーディレクターは特別な才能がなければできない仕事だ。そして、それは少数だからこそ光り輝く。経営者が全て彼らのような人材で構成されることはあり得ないし、彼らをロールモデルとするのは危険なことだ。メジャーな形ではあるが実は彼らこそ「異端」である。

 多くの経営者はもっと調停的だ。あちらを立てればこちらが立たず、という現実の中で、自社にとってベストなバランスの判断を下すことが求められる。時には社内政治もあり、その調整が必要になる時もある。「経営者の仕事は決断である」といわれるのは、この調停的な部分が存在するからだと、筆者は思っている。

 ハイパーディレクター型は決断を飛び越える。「そうすべきだ」と自分の中で基準がはっきりしており、基準そのものが他人と異なるからだ。まあ、だから軋轢(あつれき)も生まれるわけだが。

 では平井氏はどのような経営者だったか?

 筆者は「どちらでもなかった」と見ていた。本書のタイトルとは裏腹に、平井氏の経営手法は本質的に「異端」ではない。むしろ本道だ。そして、本書を読むことでそれを再び確信した。平井氏は明確な「プロデューサー型」だったのだ。

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