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統計から見る「テレビのオリンピック需要」幻想と「日本のテレビの20年」(2/4 ページ)

» 2021年07月29日 17時05分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

見えてきた日本のテレビの20年。オリンピックより「地デジ」

 ではもうちょっと深掘りしてみよう。年ごとのデータではなく、月ごとのデータで見ていくのだ。

 次のグラフは、2000年1月から2021年6月までのテレビの出荷数量をまとめたものだ。

photo JEITAの統計より、毎月の販売数量を積み上げ式グラフで表現。CRTから薄型、4Kへの移行と、時期による販売数量の差が見えてくる。赤く示したのが各オリンピックの開催時期

 このグラフはいわゆる「積み上げ式」。CRTと薄型、4K対応で分けた。薄型テレビは統計上プラズマと液晶が分かれていた時代があるが、両者は合算している。現在は有機ELも含め「薄型テレビ」として集計されている。4Kテレビは、JEITAの統計がスタートした2015年から起算している。その性質上細かいデータになったので、数字を見るというより、変遷を見ていただければ、という意図で作ったものだ。

 当然だが、前傾の年単位のグラフと大きな形は変わらない。だが、よりディテールが見えてきている。薄い水色の点線は年末を示すもの。比べるとお分かりのように、テレビが売れているのは今も昔も基本的に「年末」である。オリンピックの開催時期も重ねてみたが、アテネ大会(2004年)で多少、前の年の年末や開催時に山が見えるくらいで、他は目立った変化がない。ロンドン、リオデジャネイロあたりになると、オリンピックの影響はほぼ感じられない、といっていいだろう。

 むしろ影響が大きいのはやはり「地デジ」だ。

 2011年7月に完全移行したわけだが、当時はいわゆる「エコポイント」によるキャッシュバック需要もあって、恐ろしいほどにテレビの販売数量が伸びている。

 同じグラフの上に、オリンピックではなく「日本の放送規格の変化」をプロットしてみると、また面白いことが見えてくる。

photo テレビ放送規格の切り替わりタイミングを、同じグラフの上に載せてみた。移行はさほど速くはなく、地デジの「完全移行」がいかに巨大な影響を与えたかが見えてくる

 BSデジタル放送や地デジの「放送開始」では需要がさほど伸びず、結局強制力が強い地デジへの完全移行に向けてじわじわ伸び、間際になって急速に伸びたことが分かる。現在の4K8K放送も同様で、それによって急速にテレビの販売が伸びた、という状況でもない。直近の変化はコロナ禍での巣ごもり需要と2020年春に支給された定額給付金の影響が大きい。

 もちろん、各時期にはちゃんとトレンドがある。放送規格が年末にスタートするのも、「年末にテレビが売れる」という現象とセットで決まるものなのだろう。新しいテレビが売れる時期に放送開始を合わせることで、テレビの販売にいくらかでも良い影響を与えたい……と考えてのことではないだろうか。

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