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Googleの決済サービスを振り返りながら、pring買収による“金融本格参入”のインパクトを分析する(2/5 ページ)

» 2021年07月30日 07時00分 公開

 過去を振り返れば、Googleは「Google Checkout」の名称で2006年に決済(金融)サービスへと参入していた。当時のコンセプトは「あらかじめカード情報をGoogleに登録しておけば、Google Checkout対応サイトでの買い物時に、カードや住所などの“チェックアウト”に必要な情報の入力をスキップして素早く決済できる」というものだった。

 今でいうところのAmazonやヤフーなどのID決済に近い仕組みだが、当時はサードパーティーに決済システムを外部提供していたのが「PayPal」など限られたサービスだったことを考えれば画期的な仕組みだったといえる。

 一方でGoogle Checkoutが利用可能なショッピングサイトがそれほど多くなかったのも事実で、筆者自身もほとんど使った記憶がない。後にGoogle Payの前身となるスマートフォン決済の「Google Wallet」が2011年にリリースされ、Google Checkoutは同ブランドに吸収される形で2013年にその役割を終了した。

photo 2011年10月にシカゴで開催された4G Worldの講演にてGoogleのWallet&Payments事業担当バイスプレジデント(当時)のOsama Bedier氏
photo 2011年9月にNexus S向けのサービスとしてスタートしたGoogle Wallet
photo 現在のモバイルウォレットと呼ばれるサービスの基本的な仕組みは全て備えている

 Google Walletは、現在市場で出回っているApple PayやGoogle Payの基本コンセプトを全て備えたサービスで、クレジットカードやデビットカードなど、支払い用カードの事前登録だけでなく、「カードの即時発行」「ロイヤリティープログラムやギフトカード、クーポンなどのウォレットへの登録」「AdWordsなど広告連携」「強化されたセキュリティ」など、当時を振り返っても非常に先進的で野心的な試みだった。

 特に2010年以降には「NFC」(Near Field Communication)という近距離通信技術がスマートフォンに実装されはじめ、「スマートフォンの秘密領域(セキュアエレメント)に保存してあるカード情報をNFC経由で非接触リーダーに読み込ませることで支払いを行う」という仕組みに対応していた。

 当時、携帯キャリアはSIMカードに決済情報を登録させて「スマートフォンを通じてやりとりされる、さまざまなサービスを携帯キャリアが制御する」というコンセプトを打ち出しており、当然Googleのコンセプトとも真っ向からぶつかった。

 GoogleはAndroidスマートフォンにGoogle Walletアプリの搭載を拒否されるなどの対応を携帯キャリアから受けることになり、Google Walletの当初の計画を見直さざるを得なかった。

 結果として、Googleは携帯キャリアと利害のぶつかる可能性の高い「セキュアエレメント」を使ったモバイル決済システムの実装を諦め、システム依存性の少ないHCE(Host Card Emulation)方式を採用したGoogle Payのリリースへと傾いていく(HCE採用にあたっても携帯キャリアらの反発があったと筆者は聞いている)。

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