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Googleの決済サービスを振り返りながら、pring買収による“金融本格参入”のインパクトを分析する(3/5 ページ)

» 2021年07月30日 07時00分 公開

送金サービスとGoogle Pay

 現在ではGoogle Payの一部として統合されているものの、Google Walletの特徴の1つとして「お金の受け取りや送金が可能」という機能が用意されていた。

 米国限定のサービスではあるものの、ウォレット上に“残高”という概念があり、受け取ったお金が一時的に“プール”され、“チャージ”することで残高を増やせるようになっている。

 この残高はそのまま別のユーザーに送金したり、あるいはGoogle Payで支払いに利用したりが可能。また銀行口座と連携することで、手数料を払えば出金も可能だ。

 Appleが提供する「Apple Cash」(旧名はApple Pay Cash)の仕組みとほぼ同等だが、知り合い同士で割り勘や立て替えてもらった料金の支払いを行ったり、使い方によるが親が子どものお小遣いとして渡したりするようなやりとりにも利用できる。

 米国ではPayPalのVenmoや銀行が提供する「Zelle」といった個人間送金アプリの利用が進んでいることが知られているが、Google Payの送金の仕組みもまたこうしたサービスの代替として考えられている。

 実際に個人間送金の市場規模がどの程度あるかの最新データは筆者も把握できていないが、Insider Intelligenceによれば、2021年時点で米国の人口比で2、3割程度のシェアは獲得できているようで、「利用が浸透しつつある」という領域に差し掛かっている。

 5、6割程度といわれる同国のキャッシュレス決済比率を考えれば、まだまだともいえるが、P2Pの個人間送金サービスは一度広がりを見せると、仲間内で利用が加速する傾向があるため潜在余地は大きいと考える。

 例えばスウェーデンでは「Swish」と呼ばれる決済・送金サービスが広まっているが、送金や支払いに際しては相手の電話番号を入力するだけと非常にシンプルで手軽に利用できる仕組みだ。

 いまだ街の支払いでは普通に現金が使われていたりするが、人によっては「もう何年も現金に触れていない」というほどに現金とは無縁の状態で日常を過ごせるまでにモバイル決済・送金サービスが発達している。

 この水準に到達するにはまだ時間がかかると思われるが、「多くのユーザーが持つ環境(スマートフォン)に誰でも利用できるようなシンプルな送金の仕組み」を提供できれば、普及率はより高くなると推測する。

photo スウェーデンの青空市場における「Swish」の利用例。店主は店先に自分の電話番号を提示してSwish決済を受け付けている

 このように可能性は大きな送金サービスだが、実はGoogleがこのようなサービスを提供できているのは現状で実質的に米国とインドの2カ国しかない。

 インドについては登録した銀行口座間での送金が中心となるため、ウォレット方式の送金サービスは米国のみとなる。いろいろ理由が考えられるが、1つには法規制の壁が大きいというもの、2つ目にはその壁を破ってサービスを提供するほどのメリットがどれほどのものか測りかねているということが考えられる。

 もしpringを買収してその仕組みをそのままGoogleの標準機能とし、Google Payアプリの一部としてAndroidやiPhoneなどのユーザーに提供できれば、活用するユーザーは少なくないだろう。幸い、pringは両プラットフォームをカバーしており、将来的にこれをGoogleプラットフォームに統合する構想を持っていたとしたら夢が広がるのではないだろうか。

pringのサービスの実際

 pringに関して、よく「○○Payと同様の決済サービス」という表現はさまざまな報道で見かけるが、同社は決済サービスの環境作りそのものにあまり興味を持っていない。

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