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Googleの決済サービスを振り返りながら、pring買収による“金融本格参入”のインパクトを分析する(5/5 ページ)

» 2021年07月30日 07時00分 公開
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pring買収から2、3年後のGoogle Payを占う

 pring自身がいうように、買収からすぐにサービスに変化がないというのは確かだろう。すでにAndroidとiOSの両プラットフォーム向けにアプリが提供されており、GoogleがわざわざiOS向けアプリを引っ込める理由はない。少なくとも1年かもう少し先の間は、特に変化なく現状のままでサービスが進んでいくことになると予想する。

 次に待っているのはサービスの統合だ。アプリとして独立しているよりは、Googleアカウントに連携したり、Androidの環境にpringの送金機能が含まれてしまったりするほうが使いやすい。何より、これまでpringを利用してこなかったユーザーへの間口が広がる。

 iOS向けアプリについてはそのまま別途提供せざるを得ないが、機能統合と前後してpringアプリのリニューアルでGoogle Pay的な機能の一部が含まれるのではないかと予想する。現状、Appleはまだ日本でApple Cashサービスの提供には至っておらず、この点で先行できる。pring自身は便利で筆者も頻繁に使うサービスだが、いかんせんユーザー全体への広がりが弱く、現状では仲間内での送金や割り勘での利用に限られている。もしGoogle標準サービスとして実装が進むのであれば、より使いやすくなることだろう。

 その場合の問題の1つは「KYC」(Know Your Customer:本人確認の手続き)の部分で、pringを利用するにあたっては「eKYC」での本人確認が必須となる。

 現状のGoogleアカウントでは本人確認のプロセスには踏み込んでいないため、ここが「送金サービス」を実装するうえでのネックとなる。以前は銀行口座を登録するだけでKYCが完了したと見なされたが、現在ではドコモ口座問題を含む一連のセキュリティ上のトラブルを受けてKYCの厳格化が進んでおり、これはGoogleであっても逃れられない。ゆえに、KYCをいかに簡素化してユーザーの間口を広げられるかが重要になってくる。

 この手の解説記事ではたびたび触れているが、近年は特に「米国の大手企業が日本の金融市場を席巻する」という口調の報道記事を見かける。「最先端のサービスと最新技術の効率化をもって日本の旧来的な金融サービスを駆逐する」「もう銀行は不要」──といった内容だが、今回のpringの事業形態である「資金移動業」は制限も多く、実質的に銀行の代替にはなり得ない。

 「銀行業」の免許の取得にはいろいろハードルがあり、Googleのような企業が一朝一夕に参入できる分野でもない。そのため、Googleのような“賢い”企業であれば、自らが銀行になるよりは、銀行やカード会社をパートナーとして日本でのビジネスを組み立ててくるだろう。

 ただ、金融分野に接点を持つ以上、何らかの仕組みには足を突っ込まざるを得ず、それが資金移動業であり、この認可を受けているpringの買収と相成ったというのが筆者の分析だ。今後2、3年でサービスの使い勝手は向上しても、金融の仕組みを大きく変革するかといえば否というのが実際のところだ。

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