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熱海市の土石流災害から見えた、テクノロジーと災害対策 VR空間で視察して分かったこと(2/3 ページ)

» 2021年07月30日 15時01分 公開
[武者良太ITmedia]

 そういった背景があってか、災害後すぐに有志による静岡点群サポートチームが発足。日本経済新聞の記事によれば、地質学やデータ分析の専門知識を持つ産官学のメンバーが集い、技術・知見を持ち寄って高精度な情報を発信してきた。私見だが、災害発生後の推測はともかくデマが少ないと感じたのは、彼らの活動が寄与していることが背景にあるのではないか。

 気象学・気候学が専門の研究者でITmediaでも執筆する作家兼ブロガーも堀正岳さんも、3Dソフト「Blender」を用いてYusuke SuzukiさんのデータをVR空間内に設置した1人だ。えぐれた地形の大きさ、流れた土石の量が把握しやすいように、20mの高さの物差しも設置したという。

photo 物差しも設置

 土石流の起点になったとみられる場所から見上げる。地肌の色から、土砂や石、岩が大きくえぐれて流れてことがうかがえる。

 VRヘッドセットをかぶり、VRChatで堀さんと合流し、堀さんが作成した伊豆山のワールドを案内してもらいながらVR視察をしてみると、眼前にあるのは険しい崖だった。

photo 険しい崖

 飛行可能なアバターを用いて、鳥瞰(ちょうかん)視点で現場を見る。分かりづらいかもしれないが、右側にある住居もしくは倉庫などの建造物を比べると、崩落の規模が理解しやすい。

photo 鳥瞰視点で現場を見下ろしたところ

 「私は防災や地形学が専門ではありませんが、こうしてVR空間で現場をみるだけで、すでに多くの専門家が空撮やメッシュデータを活用して指摘している災害の実像がリアリティーをもって迫ってきます。例えば崩壊の起点部が大きくラッパ状に広がってえぐれているのは、盛り土の影響があったのではないかと指摘されていますが、谷底から見上げることでその規模が分かります。この場所から市街地まで土砂は11度(約19%)の勾配を勢いを衰えさせることなく一気に流れ落ちたのですが、その傾斜の大きさもVRで歩いてみることで分かりますね」と堀さん。

 上部の道路が残った辺りから現場を見る。VRならば二次災害の危険性がなく、現場をつぶさに見ることができる。

 集落のあるあたりと地表の色が違う、谷となった部分にあった土や岩、木々が流れ落ちたのか。圧倒的な物量の土砂が滑り落ちたことに絶望する。

 「起点部に立ってみると分かりやすいのですが、高さ20mの物差しを立てても、災害前に地表だった位置までは届きません。もともと長い時間をかけて生まれた谷の地形の上に、さらに盛土がされたことで不安定な状態になっていた可能性が、VRでみた崩壊の爪痕をみることでも推測できます。具体的な原因究明は静岡県主導の調査を待たねばなりませんが、実際に歩くことができない現場を空撮だけでなく、こうしてVRで調査することも今後は1つの手法になるかもしれないと、今回の作業をしてみて感じました」(堀さん)

 気になる場所に移動して、360度、どの方向を見ることもできる。VRヘッドセットを用いて、VR空間内にある災害地を見る・歩くことは、災害に対する大きな学びとなると感じる。

 「VRは二次災害の危険性があるために現地入りできない状態でも、直感的に視察できます。地形学の専門家や土木事業者がワールドの中に集まってVR視察をしながら知見を持ち寄ることで、少しずついろんなピースが集まっていくものでもあると考えます。写真、動画とともに、専門家にとっての新しい調査システムとなりうるものといえます」(堀さん)

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