日本古来の災害地は、地名でその危険性を示していた。水害が多い地域は「川」「池」「浜」「洲」という文字が、土砂災害の多い地域は「蛇」「竜」「龍」を使った地名がつけられていたことが多かった。現在は地名が変えられた地域も多いが、ハザードマップを見ればどのような危険性がある土地なのかを把握できる。
全国各地のハザードマップを地図と重ねて見ることができる「重ねるハザードマップ」で調べると、日本の山地の多くが土砂流危険渓流地域となっていることが分かる。別の渓流であっても土砂災害警戒区の土石流・急傾斜地の崩壊地域として指定されている場所が多い。もとより山は崩れるもの、川は流れるものといわんばかりだ。
今回の熱海市の土石流災害が起きた起点から海にかけての地域も、土砂流危険渓流地域・地すべり危険箇所・土石流警戒区域として記されていた。
ただし危険度の高さは分かっていても、いつどこが崩れるのかという予測は現時点で極めて難しい。
「雨は予測できているけども、土砂は難しい。せめて30分前とかに確度の高い土砂警報が出せれば何百人という人が助かるのに、現時点ではそれができないんですよね」(堀さん)
日本には、気象庁が持つ全国約690カ所の地震計・震度計と、国立研究開発法人防災科学技術研究所が持つ全国約1000カ所の地震観測網によって、いち早く地震の発生を察知して市民に情報を伝える緊急地震速報がある。同様の技術を山の災害対策に使うことは考えられないだろうか。
「土石流の発生する兆候をさまざまな形でモニターして警報に活用するという研究はすでに行われています。渓流の砂をモニターするといった直接的な方法から、SNSをモニターして地鳴りや地響きに関連した投稿を瞬時に集めて早期警戒に応用するといった方法まで、多くの専門家がさまざまな方向性で取り組んでいます。かつて海底地震計を使った緊急地震速報が夢だったように、ある程度のリードタイムをもった土石流の警報だって、未来には可能かもしれませんね」と堀さん。
さまざまなツールを使って情報を集めて、現象を正確に理解することを通して次の災害を防ぐ。専門家は誰しも、その知見をためることをこれからも進めていくという。そして技術の進歩によって、いつしかこういった防災対策が現実のものとなるのかもしれない。
それまでは、山地近くに住んでいるなら、大雨警報が出たら念のためにでも避難しておくという考えが普及することを願うばかりだ
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