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VTuberの中の人が入れ替わったらどうする? 中国の愛好家はこう考えるInnovative Tech(4/4 ページ)

» 2021年08月19日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]
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中の人の労働条件や入れ替え

 VTuberは、バーチャルアバターと中の人が企業と視聴者コミュニティーの両方によって意図的に体現されている点でユニークだ。そのため、VTuberは中の人の入れ替えや、複数の中の人が同じアバターの後ろで別のコンテンツを一緒に、または別々に実行できる。

 例えば、2人の中の人が一緒にストリーミングし、一人はゲームをプレイ、もう一人は視聴者と対話、といったように2つの人格の同時進行が可能だ。また、それぞれの中の人が得意なコンテンツを交代で視聴者に届けるといったこともできる。このような手法は視聴者にとって受け入れられているのだろうか。

 自分の好きなVTuberの中の人が入れ替わったらどう感じるかの質問に対しては、ほとんどの人が「どうでもいい」と述べている。中には、中の人自身の努力よりも、VTuberはチームワークのたまものであることが多いため、コンテンツの質を最も気にしている人もいる。

 視聴者7はこう述べている。「ペルソナの質が変わらなければ、多くの浅い視聴者は中の人が入れ替わっていることに気付かない……。チームがプロであれば、中の人が入れ替わっていても達成感がある」

 中の人をより経験豊富な人に置き換えた方が、より質の高いコンテンツを提供できると考えている人もいた。視聴者6はこう述べている。「VTuberにとって中の人は必要不可欠だが、中の人だけがプロジェクトの全体ではない。新作が十分に面白ければ、ライブストリームを見続ける」

 このことから、背後に複数の中の人がいても、コンテンツの質が担保されれば視聴者に受け入れられると考えられる。

 中の人の交代を受け入れられる視聴者が大半だったが、人事異動にはきちんとした理由が必要だと考えている。特に、中の人の労働条件や公正な待遇を気にしていた。

 2019年4月、日本のVTuberグループであるゲーム部プロジェクトに参加していた4人の中の人は、運営会社のUnlimitedに残業やセクハラなどの不当な扱いを受けたと告発した。同社は訴えを認め謝罪し改善すると公表したものの、4人の中の人全員を交代させた。これを受けて、視聴者コミュニティーからのボイコット(集団による登録解除)により、ゲーム部プロジェクトは終了した。

 このことから分かるように、中の人の入れ替えには問題ないが、不当に扱うのは許さないというのだ。視聴者4はこう述べている。「会社がもっともうけたいからといって、中の人を変えるのはひどい」

 視聴者3はこう述べている。「会社が中の人を罵倒したら許さない」

 他方でこのような考え方は、中の人からすれば個人ブランドを構築しにくいとも考えられる。

 視聴者からの感情的な愛着は、ほとんどがバーチャルアバターに向けたものであり、プロジェクト全体への質に向けたものだからだ。そう考えると、自分の個人ブランドを構築し報酬を得ることができる実在のストリーマーとは異なる。一部の飛びぬけた中の人ではない限り、中の人ブランドを背負って別のバーチャルアバターで活躍できるのかは別の話なのだ。

 さらにほとんどの場合、バーチャルアバターの知的財産やVTuberコンテンツの制作に必要な技術は企業に属しており、中の人は不利な立場に置かれている。企業はあまりコストをかけずに、いつでも中の人を変えられることを考えると、今後VTuberライブストリーミング産業が成長し、企業がより有利になるにつれ、新たな労働搾取の可能性があると論文では分析している。

 健全な業界であるためにも、中の人のプライバシー保護に注意を払いつつ、労働条件や環境、健康や精神状態を可視化していく必要があるのではと警鐘を鳴らしている。

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