――問題になるのは、そんな将来に向けて「どんなメタバースを作りたいのか」という部分です。
國光氏 VRだと「リアルの代替となるバーチャルな世界を目指す」という話になりがちです。でも、VRの中にリアルな世界がそのままジャンプしてくるっていうことには、そんなに意味はないと思っているんです。
さまざまな大学などで「いかにVR空間においてリアルを再現するか」という研究が多く行われてきましたが、われわれの答えは「そうじゃないな」と。
これは、「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発から学んだことなんですが……。
「ソード・オブ・ガルガンチュア」は剣戟のリアリティーを徹底的に追求し、ある程度実現できたと思っています。要は、きちんとVRの中で自分自身の身体を使ってチャンバラができるようになりました、ということです。
でも、みんなが望んでいたのは「VRの中でリアルな剣戟」ではなく「VR世界であのキャラになりきりたい」ということ。人気作品のあの技とかこの技を、自分の身体でやってみたかったんですよ。結果として「俺すごい」「俺強い」という感覚を体験したい。実際、「あの技を再現」みたいな形で楽しんでいるプレイヤーの方はたくさんいらっしゃいます。
「バーチャルでしかできないことをリアルに感じる」のがバーチャルリアリティーの本質なんだ、と学びました。
――すなわち、求めているのは「リアル」でなく「リアリティー」。
國光氏 はい。例えば見た目にしてもそうですよ。
世の中の人って、自分の見た目に100%満足してるわけじゃないと思うんですね。「なりたい自分」ってあると思うんです。なりたい性格もあるでしょう。
――VRChatなどでは「美少女キャラ」になっている人も多いですよね。
國光氏 多くいらっしゃいますね。中身の多くはおじさんだと思いますが(笑)。 これって周りからどう見られたいのか、どんな社会にいたいのか、という話につながっているんですね。
「あんな姿になりたい」「こんな風に見られたい」「自分をこう表現したい」ということは、リアルの世界だってありますよね。人の性格はとても複雑で、いろいろな側面があります。でも社会の中では「これが自分らしい」みたいな枠が作られてしまい、そこから出られない……ということも多いんじゃないかと。
もしバーチャルな世界にいられるならば、その日の気分で、そのときになりたい自分でいられるはずです。「今日は美少女になる」でもいいし、「今日はラオウみたいなこわもてになる」でもいい。
リアルな社会のコミュニティーは、周囲にいる人間同士のつながりでできています。でも僕は、世界中から気の合う友人が集まる……みたいなことを、メタバースの中で実現したい。
1つの外見と1つの性格、1つのコミュニティーに縛られるのではなく、複数の外見・複数の性格を持っていて、複数のコミュニティーを自分自身が選んで生きているような社会になってくると、生きる上での窮屈さから抜け出せるんじゃないか、と思うんです。
――複数のコミュニティーがありうるから「メタ」バース、すなわち、複数の世界をつないだものになる、ということですかね。
國光氏 そうです。だから、リアルな外見・リアルの関係に近いものもありうるだろう、と思っているんです。
――そうなってくると、課題になるのは「どう仮想世界同士をつなぐのか」という部分です。
國光氏 短期的には、ハードウェア対応としてはいわゆる「クロスプラットフォーム」にしていかないといけません。その上で自社のコンテンツだけでなく、他のメタバースとも相互運用性を高める必要はありますね。本当のメタバースになるのは、その先の話ですけれど。
――そこで鍵になるのはなんだと思います?
國光氏 そこで出てくるのが、ブロックチェーン、いわゆるNFT(Non-Fungible Token)です。NFTを絡めた「メタバース経済」の構築、ということになるでしょう。
「ほほう、それはどういうことです?」と気になるが、その先、「メタバース経済」の可能性については後編で。
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